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西日本レポート

【岡山県西粟倉村】岡山県西粟倉村「百年の森林構想」 ~地域経済循環を高めて雇用創出を~

2014.08.01 西日本レポート

岡山県西粟倉村「百年の森林構想」 ~地域経済循環を高めて雇用創出を~

わが国は国土の7割を緑に覆われた、森林資源の豊かな国である。しかし、戦後植えられたスギ・ヒノキは50年生以上になるものの、手入れが行き届いていないものも多い。
今回は戦後植林された山を十分に手入れし、森林資源を活かした産業振興を目指す岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)の取り組みを紹介する。

合併を選択肢なかった林野率95%の村

西粟倉村は、岡山県の最北東部に位置し、北は鳥取県、東は兵庫県に接している。面積は57.9km2で、そのうち森林面積が55.0km2を占めており、林野率は95%に及ぶ。人口は1,520人(2010年10月現在)で、世帯数は557世帯である。高齢化率(65歳以上人口の割合)は31.8%と3割を超えているが、林野率が高い山間地の割には高齢化率はさほど高くない。
平成の合併においては、地区会を開いて合併のメリットとデメリットを説明したり、18歳以上の村民に合併の賛否をアンケートしたりして、住民の意識を把握した結果、合併しないという道を選んだ。

「百年の森林(もり)構想」がスタート

合併を検討していた2004年に、総務省の補助事業を活用して、地域活性化策を模索した。 その結果、2007年に雇用対策協議会が設立され、主にIターン者の受け入れを目指して、仕事場をつくったり、定住を支援したりするための施策が練られ た。そして、2008年に「百年の森林(もり)構想」を策定し、2009年4月に「百年の森林事業」を始めた。
この「百年の森林構想」は、「約50年生にまで育った森林の管理をここで諦めず、村ぐるみであと50年がんばろう。そして美しい百年の森林に囲まれた上質 な田舎を実現していこう」という村長の呼びかけをきっかけとしている。村の資源であるにもかかわらず、十分な手入れが行われていなかった森林を再生し、産 業や仕事を生み出していこうというコンセプトに基づく構想である。

3,000haの森林を一括管理

百年の森林事業は、森林の管理を共同で行うという川上の事業と、伐採された間伐材を使った新たな商品の開発や販売を促す川下の事業を主な内容としている。
森林の管理は、主に役場、森林組合と(株)トビムシが担当している。(株)トビムシは、西粟倉村や全国の投資家から出資を受け、この事業のために設立された会社である。
森林の管理事業は、約3,000ha(30km2) の森林を対象に、森林所有者と西粟倉村との長期契約が交わされ、間伐や保育などが計画的に行われている。間伐材は商品価値が低いため、間伐費用を賄えず、 森林所有者に費用が発生してしまう。そのため、国や県からの補助を受け、足りない分を村が一般財源から支出し、森林所有者の費用負担をなくしている。 2013年度の村の負担は2,100万円となった。財政規模の小さな西粟倉村にとっては、決して軽い負担ではないが、森林が整備されることによって、災害 の発生が食い止められることなども期待され、住民の理解を得ているとのことである。

百年の森林構想

※FSC森林認証とは、世界の森の審査を行うドイツに本部をおく森林管理協議会(FSC)の認証である。
資料:西粟倉村の資料を基にIRC作成。

切り出された木材を村内で加工

百年の森林構想は、「山を活用して、村の小さな経済を回そう」という構想でもある。そのた め、山で伐採された原木の流通経路が大きく変えられた。これまでは、多くが村外の原木市場に出されていたが、ほとんどが村内の森林組合に出されるようにな り、森林組合の土場で検寸や材質によるABCのランク分けがされている。
主な売り先は、西粟倉村、(株)トビムシ及び村民が出資している(株)西粟倉・森の学校である。同社は、ランク分けされた材のうち、AB材を自社製材工場で製材し、家具製造者や合板・集成材等の大手製材業者に販売したり、自社で内装材などを製作したりしている。
また、同社は廃校となった小学校を活用した“森の学校” の管理運営を西粟倉村から任されている。森の学校では、西粟倉村の材を使った住宅からわりばしにいたるまでの商品が展示・販売されており、西粟倉村のショールームの役割を果たしている。

森の学校では簡単に貼れるユカハリ・タイルも販売

森の学校では簡単に貼れるユカハリ・タイルも販売

Iターン者が家具製造会社を起業

百年の森林構想に惹かれた若者が、ヒノキの家具をつくろうと起業したのが(株)ようびである。
同社は、栃木県出身の大島正行氏がヒノキ材を使った家具を製作しようとIターンして設立した会社である。ヒノキ材はやわらかくて加工が難しいとされていた が、大島社長は独自に木組みを研究開発し、白くて木目の美しいヒノキ家具を生み出している。同社の製品は口コミでそのよさが伝わり、岡山はもとより関西、 関東にも顧客が広がっている。また、家具作りを志す若者を受け入れ、現在では6人の若い職人が腕を振るっている。

ヒノキの家具を日本の文化にしたいと語る大島社長

ヒノキの家具を日本の文化にしたいと語る大島社長

子どもたちに木の遊具を

百年の森林構想が検討され、形がまとまりつつあった時期に、森林組合に勤務していた國里哲也氏が森林組合を辞めて起業した(株)木の里工房木薫(もっくん)もある。
同社は、西粟倉村のスギ・ヒノキを使った、幼稚園や保育所向けの遊具作りを行っている。
事業を始めたきっかけは、幼稚園児が木の香りを臭いと言ったこととのこと。木の香りをトイレの芳香剤としか感じない子どもたちに愕然としたそうで、本物の木に触れて、無垢の木の温かみややさしい手触り、心地よい薫りを感じてもらいたいとの思いが強くある。

木の薫りを子どもたちに伝える木薫の遊具

木の薫りを子どもたちに伝える木薫の遊具

Iターン者は40人を超えている

百年の森林事業は、森林所有者が損をしない、村内で流通・加工する、製品開発を促し川下を広げる、そして、こうした取り組みで仕事が増え、Uターン者はもとよりIターン者を受け入れる、とい う循環を形成しつつある。
特にIターン者は、間伐などを行う森林組合と(株)西粟倉・森の学校、(株)ようび、(株)木の里工房木薫の4事業者が主な受け皿となって、すでに40名を超えている。中には森の学校に入社した後、独立して家具作家となった者もいる。
また、山陰のお酒を飲んでもらおうと、松江からやってきて森の学校に酒店を開いた女性もいる。同店では、居酒屋などと連携し、「出張日本酒バー」を行っている。

新たな投資や人材育成を構想

百年の森林事業のスタートは順調だ。森林施業に要する林業機械などの投資資金を募集した 「共有の森ファンド」は出資者400名、出資額4,200万円を超え、毎年200~300haの森林の間伐や林道の整備が行われている。この先、事業が進 めば3,000haの森からの伐採量は増え、優良材の割合も高まっていくことだろう。

ショールームやツアー窓口となる森の学校

ショールームやツアー窓口となる森の学校

そうした先を見つめて、(株)西粟倉・森の学校では、住宅の内装材の生産量を増やそうと、 農林漁業6次産業化ファンドの出資を受け、木材の乾燥機や製材工程のライン増設を計画している。また、(株)ようびの大島社長は、ヒノキの優良材の増加を 見越し、40年先の家具製造を任せられる人材を育成しようと、人員の確保と人材育成を思い描いている。

西粟倉ファンを増やしたい

設備投資や人材育成だけではなく、西粟倉ファン作りの取り組みも進められている。共有の森 ファンドの出資者を対象とした源流の森ツアーや一般の人を対象とした林業体験、子どもたちも楽しめる工作教室など様々なメニューを用意して、西粟倉を体感 してもらおうとしている。住宅や家具・遊具、わりばしに至る木製品の背景にある西粟倉村の風景を知ってもらいたいという思いがある。

おわりに

国勢調査の人口データを見ると西粟倉村の0~4歳の児童数は、2000年に59人、2010年に58人とほとんど減っていない。また、25~39歳の人口は2000年222人、2010年228人とわずかに増加している。中国山地の小さな村としては、際立つ数値であろう。
西粟倉村では、百年の森林構想を策定する際に、愛媛の久万高原町をはじめ各地の森林や関連する事業の取り組みを学んだそうである。そうした話を聞くと、改 めて愛媛は林業の先進地であると思い返した。しかし、先進地であるとしても他から学ぶべきことはとても多いようだ。そんな思いで、智頭(ちず)急行線に揺られ、四国への帰路についた。

(黒田 明良)

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