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西日本レポート

【佐賀県武雄市】自治体のSNS活用で最先端を走る佐賀県武雄市 ~新たな自治体の可能性を求めて~

2012.12.01 西日本レポート

自治体のSNS活用で最先端を走る佐賀県武雄市 ~新たな自治体の可能性を求めて~

武雄市フェイスブックページ

フェイスブックに代表されるSNS(Social Networking Service:インターネット上の交流サイト)が日本でも急速に普及しているが、自治体においてもSNSを活用する動きが多くみられるようになった。
なかでも佐賀県武雄市は、2011年2月にフェイスブックページを開設し、同8月には市の公式ホームページをフェイスブックに完全移行するなど、SNSを活用した情報発信において最先端を走っている。今回は、武雄市のこれまでの取り組みや今後の方向性などをレポートする。

佐賀県武雄市の概要

佐賀県武雄市は、福岡市から電車でおよそ1時間、人口約5万人の都市で、古くから九州西部の交通の要衝として発展してきた。高速道路の武雄ジャンクションは、長崎・佐世保・福岡への分岐点となっており、市内の3ヵ所のインターチェンジから各方面へアクセスすることができる。また、10年後には九州新幹線西九州(長崎)ルートが通る予定となっている。
加えて、1300年以上の歴史を持つ武雄温泉やそのシンボルである楼門(国指定重要文化財)、陶芸品(武雄焼)など、観光資源にも恵まれている。

武雄温泉楼門(国指定重要文化財)

武雄温泉楼門(国指定重要文化財)

樋渡市長によるユニークな試み

武雄市は、多くの観光資源を有し、交通アクセスも良好であるものの、「九州の地方都市の一つ」というイメージが強かった。しかし、2006年に36歳で当時の全国最年少市長となった樋渡ひわたし啓祐氏のユニークな取り組みにより、大幅な知名度アップに成功した。
具体的には、ドラマロケ誘致をきっかけに設置された「佐賀のがばいばあちゃん課」(2006年)のほか、鳥獣被害対策と商品開発を行う「いのしし課」(2009年)や、市内の男女の仲を取り持つ縁結び事業を実施する「お結び課」(2010年)などのユニークな部署の設置、名産品「レモングラス(ハーブの一種)」の栽培開始(2007年)などである。
また、職務中のインターネット利用を制限する自治体も多いなか、職員全員に簡易ブログ「ツイッター」のアカウントを取得させ、積極的に「つぶやき」を推奨するなど、先進的な取り組みを実施してきた。

市の公式HPをフェイスブックに完全移行

そして2011年2月には、全国の自治体の先陣を切って、市のフェイスブックページを開設した。フェイスブックは、実名での投稿を基本とし、双方向のコミュニケーションが可能なSNSである。
さらには、同年8月に、市の公式ホームページをフェイスブックに完全移行した。これは、世界初の取り組みと言われている。また、2012 年の4月には秘書広報課の広報部門を「フェイスブック・シティ課」として独立させ、併せて全職員をフェイスブックに登録させた。

フェイスブック・シティ課

フェイスブック・シティ課

フェイスブック移行の目的と成果

ホームページのフェイスブック移行の目的は、市の活動や施策、災害発生状況などの素早い情報発信や、行政の透明性の確保、職員のモチベーションの向上などである。また、現在フェイスブックを利用している自治体の多くが、住民向けに情報を発信するだけの「一方通行型」の利用であるのに対し、武雄市は市民との双方向のコミュニケーションを目指し、市民目線で問い合わせや要望にきめ細かく対応する「対話型」の利用を重視している点に特徴がある。
フェイスブック・シティ課の職員によって毎日コンスタントに投稿される情報には速報性があり、また、投稿の内容も、毎日の天気に始まり、イベントの案内、市内の名店の紹介に至るまで幅広く、市民以外の人が読んでも楽しめるように様々な工夫が凝らされている。
各投稿に対するコメントもコンスタントに寄せられ、それに対して職員もクイックレスポンスすることで、双方向のコミュニケーションが図られている。
このような取り組みの結果、従来は月間5万回程度であった市のホームページの閲覧数が、フェイスブック完全移行後は月間300万回前後にまで大幅に増加した。また、ページに対する「いいね!」(肯定的な意思表示)は2012年11月時点で20,000人を超え、他の自治体のページにおける「いいね!」の数を圧倒している。
武雄市には現在、先進的なフェイスブックの活用手法を学ぼうと、全国各地から毎週のように自治体の職員や議員が視察に訪れ、市長や担当部署は対応に大忙しと言う。

議員視察に対応する樋渡市長

議員視察に対応する樋渡市長

市長のITリテラシー向上への取り組み

他の多くの自治体と同様に、武雄市でも高齢化が進行している。武雄市の、人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は25.6%(2010年)で、全国平均(23.0%)はもちろん、佐賀県平均(24.6%)も上回っており、今後も高齢化率が上昇する見通しである。
言うまでもなく、フェイスブックなどのSNSは比較的新しいコミュニケーションツールであり、情報のやり取りをする上で、市民側にも相応のITスキルが求められる。しかしながら、今後も増加が見込まれる高齢者は、相対的にIT知識が乏しい。そのため市では、情報を受け取ることができない市民が出ないよう、従来の行政無線や広報誌などによる情報発信を継続する一方で、市民、特に高齢者のITリテラシーを高めるため、様々な支援を行っている。

武雄市の人口と高齢化率の推移

ICT寺子屋

具体的には、2011年6月から、市民にパソコンやインターネットの知識を広める講習会「ICT寺子屋」を開催している。主に初心者を対象とし、フェイスブックの講習会だけでなく、文書作成やインターネットの利用方法やセキュリティなどに関する講座をほぼ毎日開催しており、これまでに延べ2,000人以上が受講している。高齢の受講者も多く、好評を博しているようだ。事実、市のフェイスブックページにも高齢者からの投稿が増えており、徐々にその成果が現れつつある。

ICT寺子屋の様子

ICT寺子屋の様子

フェイスブックを活用した特産品の販売

武雄市ではほかにも、フェイスブックを通した地域活性化の取り組みとして、市の特産品などを販売する「FB良品」というサイトをフェイスブック上に開設している。
このサイトの目的は、地元の農家や商工業者への支援である。出店手数料は無料で、販売手数料も民間の通販サイトと比べて大幅に安く設定しているため、小規模事業者でも気軽に出品することが可能である。
また、フェイスブック上のサイトを利用するため、商品購入者の率直なコメントが「友達」などを介して幅広く広がり、大きな宣伝効果が得られるのも特徴である。
現在、特産品の佐賀牛やレモングラス、トマトや米などの農産品、陶芸品などおよそ70点が出品されており、月間の平均売上も約100万円に上っている。将来的には、取扱品目1,000点、年間売上10億円を目指すと言う。
さらに武雄市では、フェイスブック上で特産品を販売する「FB良品」事業を、他の自治体へ広める活動にも取り組んでいる。他の自治体と連携し、互いの特

産品を紹介し合うことにより、さらなる購買を促進することができる。現在、鹿児島県薩摩川内市や岩手県陸前高田市、福岡県大刀洗町などで「FB良品」のサイトが各々開設されている。また、今年度中には新たに15前後の自治体がサイトを開設する予定となっているそうだ。

FB良品のフェイスブックサイト

FB良品のフェイスブックサイト

おわりに

武雄市では、フェイスブックなどのSNSを活用して、迅速な情報発信や住民との双方向コミュニケーション、地域活性化に取り組んでいる。賛否両論あるものの、これらの先進的な取り組みは、樋渡市長の強いリーダーシップのもと、市の職員が知恵を絞り、市民も積極的に関与しながら行われているものであり、成果も現れつつあるようだ。人口減少や産業空洞化などで、ともすれば閉塞へいそく感が漂いがちな地方において、武雄市の取り組みは、自治体の新たな可能性を指し示す好事例と言えるのではないだろうか。

(岡田 栄司)

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