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西日本レポート

【九州】列車に乗ったら、観光気分!? ~全線開業1周年を迎えた九州新幹線と個性的な観光列車~

2012.04.01 西日本レポート

 	列車に乗ったら、観光気分!?

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列車は「単なる移動手段」でなく「移動そのものを楽しむ時間・空間」。九州には、そうした観光列車が多数運行されている。

競争の激しい九州の交通事情

観光列車の紹介の前に、九州の交通事情について触れておく。九州は、鉄道と高速バス、マ イカーに航空機を加えたシェア争いが激しい地域である。そうしたなかで、昨年3月の九州新幹線の全線開業によって博多駅-鹿児島中央駅間は1時間17分、 山陽新幹線に直通する「さくら」「みずほ」によって、新大阪駅-鹿児島中央駅間も3時間42分(2012年3月17日ダイヤ改正後、いずれも最速)で結ば れた。
このように新幹線は、九州の都市間輸送だけでなく、中国地方や関西など九州外との移動にも大きなインパクトを与えるとともに、新たな競争の時代に入った。

九州新幹線全線開業から1周年

九州新幹線の全線開業により、博多-鹿児島中央間の利用者数は、開業前に比べ約4割増加した。特に、熊本や宮崎、鹿児島へは、新幹線の開業効果やイベントの開催、キャンペーンの展開により、中国地方や関西などから多くの観光客が訪れた。
また、全線開業と同時にオープンした博多駅ビル「JR博多シティ」には5千万人を超える来場者があるなど、まさに新幹線に沸いた1年だった。

内外装ともに魅力のある車両

JR九州では、1987年の民営化以来、車両や駅舎などのハード面、運行ダイヤなどのソフト面で利便性・快適性向上に取り組んできた。特にハード面は、デザイナーでJR九州のデザイン顧問も務める水戸岡鋭治(みとおかえいじ)氏が特急列車から普通列車までデザインし、原色塗装や木の使用、革張りの座席など、内外装ともに個性豊かで魅力ある車両が多数投入されてきた。

博多駅に並ぶ特急列車

博多駅に並ぶ特急列車

観光列車のラインアップ

最近、SLやトロッコ列車、リゾートトレインといった観光列車が、男女を問わず幅広い世代から人気を集めている。
JR九州では、民営化当初から観光列車を運行していたが、九州新幹線の開業に伴い、SLの復活や、保有車両の大改装などにより観光列車の増強を図った。展望席やベンチ、ソファー、キッズコーナーを設けた車両、カフェかバーを思わせるような車両など、多種多様な8種類の観光列車が運行されている。また、車内 では、客室乗務員による車窓ガイドや、地域の特産品・列車関連グッズの販売が行われるほか、駅停車中には記念撮影のサービスなどもあり、列車に乗ったとき から観光気分を味わえる。
このうち、熊本、宮崎、鹿児島の南九州エリアでは、熊本駅-阿蘇駅間を結ぶ「あそぼーい!」や、熊本駅-三角(みすみ)駅間の「A列車で行こう」、鹿児島中央駅-指宿駅間の「指宿のたまて箱」など、7種類の観光列車が運行されている。いずれの列車も利用状況は好調で、中には増便や車両の増結を行ったものもある。
なお、「A列車で行こう」は、九州のローカル線を舞台に若者の旅を描き、森田芳光監督の遺作となった映画「僕達急行A列車で行こう」(3月24日公開)のPRにも使用された。

観光列車を紹介するパネル(熊本駅)

観光列車を紹介するパネル(熊本駅)

肥薩線の観光列車

今回、博多から鹿児島まで、九州新幹線と人吉・吉松方面の観光列車を乗り継ぐ体験乗車の機会を得た。

800系新幹線車内

800系新幹線車内

博多駅から熊本駅までは、JR九州オリジナルの800系新幹線「つばめ」号に乗車。一般的な新幹線の普通車両は、座席が横5列配置だが、800系新幹線は横4列で非常にゆったりしている。座席や内装パネルには、木や木目調のシートが使われ、洗面室には、熊本県八代のい草を使った「縄のれん」が設置されている。また、一部の編成には、金箔や漆、西陣織を使った車両もあり、最新技術のなかに伝統の技も取り入れた個性的な車両もある。
※従来の横5列座席の車両も一部、運行されている。

「いさぶろう・しんぺい」で山岳区間へ

熊本駅で在来線の「九州横断特急」に乗り換えた。車体は赤で車内には木目調のパネルが貼られた特徴的な内外装の車両である。実はこの車両、元々四国を走っていた物で、九州へ転属後に大改造されたそうだ。
列車は、日本三大急流のひとつ、球磨川(くまがわ)に沿って山あいを縫うように走る。
人吉駅で、「いさぶろう・しんぺい」号に乗り継ぐ。2004年の運行開始にあたって、赤く塗装された車体の中央には展望スペースが設置され、全体的に木を使ったインテリアに改装されている。
列車が走る人吉-吉松間は、霧島連山の雄姿が望め、日本三大車窓と呼ばれる「矢岳越え」、山岳区間に設置されたループ線やスイッチバックがあり、客室乗務員による観光案内や絶景ポイントでの停車など、約1時間では物足りないほど充実した旅が楽しめる。列車の愛称は、肥薩線工事の最高責任者であった、当時の逓信(ていしん)大臣、山縣伊三郎(やまがたいさぶろう)と、鉄道院総裁、後藤新平(ごとうしんぺい)にちなんで付けられたもので、途中にある矢岳第一トンネルの坑口には、2人が揮毫した石製の扁額が掲げられている。トンネルを抜け、峠を下ると熊本県から鹿児島県に入り、ほどなく吉松駅に到着した。
※ループ線…急勾配を緩和するために線路をループ上に旋回させた区間、スイッチバック…急勾配区間をジグザグ状に前進・後退を繰り返しながら上り下りする区間。

ループ線で一時停車、霧島連山を望む

ループ線で一時停車、霧島連山を望む

登録有形文化財の木造駅舎

吉松駅では、同じホームに停車中の「はやとの風」号に乗り継ぐ。「いさぶろう・しんぺい」号とは異なり、黒い塗装が特徴で、こちらも2004年から運行されている。盆地の中をしばらく走ると、大隅横川(おおすみよこがわ)駅に停車する。大隅横川駅は、その先にある嘉例川(かれいがわ)駅とともに明治末期の肥薩線開業以来の木造駅舎で、国の登録有形文化財に指定されている。それぞれ5分間の停車時間に、駅舎と車両をバックに記念撮影をする乗客も多い。

「はやとの風」号(嘉例川駅)

「はやとの風」号(嘉例川駅)

嘉例川駅の駅事務室は、地元のボランティアによってギャラリーとして整備され、古い駅名 板や時刻表が展示されているほか、ひな人形も飾られていた。九州新幹線開業と「はやとの風」号運行開始以降、テレビ番組や旅行雑誌でも紹介されて知名度を 上げ、駅舎の見学を目的に訪れる観光客も増えているそうだ。
「はやとの風」号は、隼人(はやと)駅から日豊(にっぽう)本線に入り、錦江(きんこう)湾に沿って走る。展望スペースで桜島やヤシ並木などの車窓風景に南国・鹿児島を感じながら、ほどなくして終点の鹿児島中央駅に到着した。
この先、さらに観光列車を乗り継いで温泉地・指宿に向かう人や新幹線で博多に戻る人などそれぞれの目的地は異なるが、皆が、3時間余りの列車の旅を満喫した様子だった。

「はやとの風」号の展望スペース

「はやとの風」号の展望スペース

全国から訪れる観光列車の乗客

観光列車の乗客は、一人旅やグループ、家族連れなど様々だが、昨年の九州新幹線の全線開 業後は、中部や関東方面からの観光客が増えているそうだ。また、客室乗務員の方によると、「鉄道ファンのほか、人気ぶりを知ろうと視察目的で乗車される方 も増えています」とのことであった。

2013年、豪華寝台列車も運行予定

JR九州では、こうした観光列車プロジェクトの集大成とも言える、九州を一周する寝台特 急「クルーズトレイン(仮称)」構想が進行中で、2013年の運行開始を目指している。1両につき3~4室のゆったりとした個室やレストラン、ラウンジ、 展望車などを備える予定で、贅沢な観光列車の旅が楽しめることになるだろう。

おわりに

九州の観光列車は個性的な車両ばかりで、車内ではきめ細かなサービスも提供される。また、車窓風景も美しく、上質の鉄道旅行を楽しむことができる。九州に足を運んで、観光列車の旅を楽しまれてはいかがだろうか。

(新藤 博之)

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