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西日本レポート

【大阪府堺市】鉄のまちから液晶のまちへ そしてもうひとつの堺 ~ものづくりのまちで進む“環境との共生”~

2008.09.01 西日本レポート

鉄のまちから液晶のまちへ そしてもうひとつの堺 ~ものづくりのまちで進む“環境との共生”~

2008年9月3日、伊予銀行としては14年ぶりの県外店舗として、堺支店がオープンする。堺支店の立地する大阪府堺市は、歴史と文化に彩られたまちであるとともに、「ものづくりのまち」でもある。今回は、“魅力あふれる自由都市・堺”について紹介する。

堺の歴史と文化

堺市は、近畿地方の中央に位置し、古くから日本における経済・交通・文化等の拠点都市として発展してきた。
市内には、4世紀後半から5世紀後半にかけて造営された古墳が数多く点在(百舌鳥(もず)古墳群)し、歴史と文化を今に伝える貴重な遺産として、高い評価 を受けている。なかでも仁徳陵古墳は、長さ(墳丘長)486m、周囲約3kmと、日本最大の古墳であり、クフ王のピラミッドや秦の始皇帝陵とともに世界三 大墳墓の1つとされている。
百舌鳥古墳群は、築造時には100基を超える古墳があったとされるが、現在残っているのは47基である。この古墳群 を人類共通の遺産として保存・継承していくため、堺市では、世界遺産(文化遺産)登録へ向けた取り組みを進めている。以前から、古墳やその周辺地域では清 掃など市民によるボランティア活動が行われていたが、世界遺産登録へ向け、百舌鳥古墳群を守っていこうという機運が一層高まっているようだ。

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仁徳陵古墳(堺市提供)

また、中世には日本の貿易の中心地として栄え、世界的にも珍しい環濠都市を形成し、自 由・自治都市として繁栄した歴史を持つ。茶聖と称される千利休はこの地の出身であり、「茶の湯」など数々の文化が花開いた。先人たちから受け継いだ「進取 の気風」「自由と自治の精神」は、堺の人たちにとって重要な財産となっており、現在進められているまちづくり政策「新しい自由都市・堺ルネサンス」にも、 こうした伝統を生かした市民自治の実践が掲げられている。

建設進む「シャープ・21世紀型コンビナート」

堺で今一番ホットな話題といえば、シャープが中心となって進めている「21世紀型コンビナート」の建設など、臨海部で進む大型投資案件だ。127万m2という広大な敷地に、シャープの液晶パネル工場と太陽電池工場の建設が進められており、さらに、関連するインフラ施設や部材・装置メーカーの集積も予定されている。
液晶パネル工場建設の投資額は、土地代を含め約3,800億円と公表されているが、部材・装置メーカーの投資額を含めると、総投資額1兆円規模の超大型投 資案件となる。堺市では、液晶パネル工場の建設にかかる経済波及効果が約8,000億円、生産活動による効果が年間約1兆1,000億円(10年間で約 11兆円)、雇用拡大効果が約1万人と試算している。市内のビジネスホテルでは客室稼働率が上昇しており、新設や増設などの動きも見られ始めた。ターミナ ル駅の乗降客数も増加するなど、広い範囲で「シャープ・21世紀型コンビナート」の建設効果が現れ始めている。
このほかにも、堺市の臨海部で は、大阪ガスや関西電力、コスモ石油などをはじめとする大型投資案件が相次いでいる。堺市産業振興局によると、「シャープ・21世紀型コンビナート」以外 にも、約50社3,400億円の投資案件が予定されているとのことである。堺市臨海部における企業投資は、堺市だけでなく、大阪府や近畿圏全体にとっての 経済活性化の起爆剤として、大きな期待を集めている。

受け継がれるものづくりのDNA

堺は、1958年の堺泉北臨海工業団地の造成や、61年の八幡製鉄(現新日本製鉄)堺製 鉄所設立以降、国内でも有数の重化学工業地域として発展してきた。近年は、長い“鉄冷え”の時代や国内産業の構造変化などを受け、厳しい状況が続いていた ものの、堺市が国内有数の工業都市であることに変わりはない。経済産業省「工業統計調査」によると、堺市の2006年の製造品出荷額等は2兆7,342億 円で、市町村別では浜松市に次ぐ10位となっている。業種別に見ると、全国平均と比べ、石油化学や鉄鋼、非鉄金属、金属製品といった素材型産業のウェイト が高くなっている。また、一般機械のウェイトも高い。

市町村別製造品出荷額等(2006年)

資料:経済産業省「工業統計調査(市町村編)」

資料:経済産業省「工業統計調査(市町村編)」

堺のものづくりは古い歴史を持っており、古墳時代には、古墳造営のための道具を製造する 人々が集団を形成し、鍛冶技術が発展する基礎ができたと言われている。16世紀には、タバコの葉を切るためのタバコ包丁が作られるようになり、堺刃物とし て名声を高めていった。1982年には、「堺打刃物」が国の伝統的工芸品に指定され、現在、27名の職人が伝統工芸士に認定されている。特に専門家からの 評価が高く、プロ料理人の使う包丁の約9割が堺産と言われている。
また、戦国時代には鉄砲製造で全国に名をはせ、その後、鉄砲鍛冶の技術は自転車産業へと受け継がれていった。現在、国産自転車・自転車部品の約4割が堺で製造されたものである。
高度成長期には“鉄のまち”として栄え、さらに今、液晶などの新しい産業で飛躍しようとしている堺には、“ものづくりのDNA”が受け継がれていると言えるだろう。

「HAMONOミュージアム」では様々な「堺打刃物」を紹介

「HAMONOミュージアム」では様々な「堺打刃物」を紹介

臨海部に“もうひとつの堺”

「シャープ・21世紀型コンビナート」の建設が進む堺市臨海部を舞台に、今年6月、新たなプロジェクトが発表された。関西電力とシャープによる、世界最大級の太陽光発電施設の計画である。堺市も、両社と協力して推進していくことを表明している。
シャープは、現在建設中の液晶パネル工場をはじめとするコンビナート各工場の屋根上等に、関西電力グループと共同で太陽光発電装置を設置する。2010年 3月までに着工、2011年3月までに運転開始予定で、発電出力は最大約1.8万kW、発電された電力は、主にコンビナート内で自家消費電力として使用さ れる計画である。
一方、関西電力は、同じ臨海部にある産業廃棄物埋立処分場跡地「堺第7-3区」において、約50億円を投じて、発電出力約1万 kWの太陽光発電所を建設する計画だ。この「堺第7-3区」を中心に、今、“もうひとつの堺”とも呼ぶべき、「環境との共生」を図る取り組みが進められている。

環境との共生

「堺第7-3区」で産業廃棄物の埋立事業が開始されたのは1974年である。高度成長期 においては、大都市から排出される大量の産業廃棄物をいかに適正処理していくかが大きな課題であった。そこで、公共関与という形で堺市の臨海部に約 280ha(甲子園球場の約70倍)という広大な処分場が確保され、財団法人大阪産業廃棄物処理公社により埋立事業が開始された。2004年には産業廃棄 物の受入が、2006年には土砂の受入が終了し、すべての埋立処分事業が完了した。

「堺第7-3区」(大阪府提供)

「堺第7-3区」(大阪府提供)

高度成長期以降の廃棄物対策の結果として生まれた「堺第7-3区」は、その跡地の活用においても、「環境との共生」が強く意識されている。以下では、現在進行中の「共生の森構想」と「エコタウンプラン」について紹介する。

「共生の森構想」

大阪府では、「堺第7-3区」のうち約100haについて、府民やNPO、企業などとの協働により、長い時間をかけて緑の拠点を回復していこうという活動を進めている。
2004年には、府民との協働による具体的な森づくりの進め方についてのワークショップを開催するなど、具体的な活動が始まった。植樹イベントや草刈りな どの保育管理活動には、多数の府民や企業の参加・支援が寄せられている。また、森づくりや自然再生活動に興味を持つ人を対象とした養成講座の開催など、森 づくりの担い手育成も進められている。
2008年2月に行われた「第5回共生の森植樹祭」では、府民を中心に430名が参加し、24種類、約 2,000本の苗木が植えられた。これまでに植樹された面積は約1.6haで、やがては、野鳥や小動物の生息する草地や水辺などに森林が介在する、大規模 な“ビオトープ”が誕生する構想だ。

「共生の森」の将来イメージ(大阪府提供)

「共生の森」の将来イメージ(大阪府提供)

「エコタウンプラン」

「堺第7-3区」の一角では、「大阪府エコタウンプラン」によるリサイクル事業が進められている。
これは、「ゼロ・エミッション構想」を基本に、先進的な環境調和のまちづくりを推進することを目的とした国のエコタウン事業に基づき、2005年7月に承 認された事業である。大阪という大都市ならではの地域特性や諸課題に対応すべく、民間からの提案による7つの事業が認定を受け、整備が進められている。そのうち5事業(リサイクル施設)がこの「堺第7-3区」に集中しているのである。
このエコタウンで進められているリサイクル事業の中には、「21世紀COEプログラム」に採択された先進的な新技術を活用した事業や、非食料(建築廃材等)によるバイオエタノールの製造事業など、全国的にも注目度の高い事業があり、環境事業としての将来性に対する期待は大きい。

先進的な技術を活用したリサイクル施設(大阪府提供)

先進的な技術を活用したリサイクル施設(大阪府提供)

クールシティ・堺

こうした“環境との共生”を図るまちづくりは、臨海部だけで進められているわけではな い。堺市では、歴史や自然環境、市民・企業等の民間活力など、様々な地域ポテンシャルを最大限活用し、「快適な暮らし」と「まちの賑わい」が持続する低炭 素型都市の実現を目指している。こうした取り組みは、「クールシティ・堺」推進プログラムとして、国の「環境モデル 都市」に提案されており、今後、具体的なアクションプランが策定される予定である。
「クールシティ・堺」では、前述のように世界最大級の太陽光 発電施設を整備するほか、公共施設や家庭等での太陽光発電「まちなか自然エネルギー発電所」、「LRTと自転車を活かした低炭素型モビリティ都市モデルの 構築」を中心に取り組んでいく。これらの活動は、「産・官・学」の連携に加え、市民や自治会、NPOといった市民が主役のまちづくりでもある。「自由・自 治」の精神をはじめとする新旧様々な“堺の財産”が、「クールシティ・堺」の根幹にある。堺が、それらの“財産”をフル活用し、“環境との共生”という面 でも世界をリードしていくことを期待している。

(福本 太一郎)

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