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西日本レポート

【福岡県北九州市】地域発展の期待乗せ、新北九州空港テイクオフ! ~東アジアの物流拠点、西日本・九州の新たなゲートウェイとして期待高まる新空港~

2006.06.01 西日本レポート

地域発展の期待乗せ、新北九州空港テイクオフ! ~東アジアの物流拠点、西日本・九州の新たなゲートウェイとして期待高まる新空港~

2006年3月16日、新北九州空港が開港した。北九州市の東部、周防灘の沖合3kmに建設された新空港は、2,500mの滑走路を備えた、24時間運用も可能な本格的海上空港である。今回は、地域待望の新空港を紹介したい。

不便な旧空港

北九州地区では、これまで既存の北九州空港が使われてきた。しかし、滑走路が1,600mと短く小型ジェット機しか発着できない、三方を山に囲まれた地形のため天候不良による欠航率が高いなどの問題があり、新幹線や便数の多い福岡空港を利用する人が多かった。
地元では1971年に新空港の建設を国に要望、1981年、第4次空港整備計画で採択され、1994年に着工された。

空港整備事業費は格安

新空港の建設に当たっては、関門航路等のしゅんせつ土砂を空港島の埋立に利用し、港湾整備 と空港整備を一体として進めた。そのため、しゅんせつ土砂の有効活用による、環境への配慮と建設コストの低減が両立できた空港建設だといえるだろう。しゅ んせつ土砂の有効活用によるコスト低減の方針から、完成までに12年を要した。

地盤改良工事中の空港:H15.4撮影 (国土交通省北九州港湾・空港整備事務所提供)

地盤改良工事中の空港:H15.4撮影
(国土交通省北九州港湾・空港整備事務所提供)

建設コストの低減効果は大きく、空港整備事業費は海上空港としてはかなり少ない1,024億円で済んだ。連絡橋や接続道路などを含めた総事業費でも約1,700億円と、同規模の神戸空港の約3,000億円よりもかなり少ない。

利用者見込みは100万人

北九州市では開港初年度の利用者数を100万人と見込んでいる。北九州圏域には、年間 200万人の首都圏への旅客流動があること、北九州-東京間の1,000km超という距離からすれば35%近い鉄道利用率は非常に高いこと、また旧北九州 空港の搭乗率は70%台後半と高く東京への航空需要がかなりあったことなどから考えると、100万人という見込みは高すぎるものではないだろう。どちらか というと控えめな数字にも思えるが、「小さく生んで大きく育てる空港に」との市長の方針からも、新空港に対する期待の高さがうかがえる。市としては、今後 ともチャーター便を利用した商品の組成などによる集客や新空港のPRなどの利用促進策を継続して実施する。

新規航空会社が就航

新空港開港にあわせて、新規航空会社スターフライヤーが運航を開始した。新空港と羽田空港 を1日12往復運航している。新規航空会社は、格安運賃をうたい文句に参入する場合が多いが、大手との価格競争が激化し、経営難に陥る事例も多い。しか し、同社は今までの新規航空会社と違った特徴を生かして、事業展開を行っている。

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最大の特徴は、21時間運用の新空港のメリットを十分に生かした、北九州発の第1便が午前 5時30分発、羽田発の最終便が午後11時50分発というダイヤ編成で、早朝深夜の利用という新たな航空需要の掘り起こしを狙っていることだ。実績として も、就航後1ヵ月間の搭乗率は、北九州発の始発便71.1%、羽田発の最終便は56.3%と好調だ。また、野球の世界一を決めるワールド・ベースボール・ クラシックを終えて帰国した王監督が、同社の最終便に搭乗しソフトバンクホークスの翌朝の練習に参加したり、東京での試合終了後選手たちが、最終便に乗っ て北九州経由で福岡に帰ったりするなど、同社の利便性に着目した利用が拡がっているようだ。
また、ビジネスマンをメインターゲットにしていることも特徴だろう。早朝深夜便のダイヤ編成に加えて、ゆったりとした黒い革張りのシートで前後の座席間 隔を他社に比べて約12センチ広くしたり、座席にはパソコン電源を装備したりするなど、快適なフライトを提供している。ただし、聞くところでは、ゆったり としたシートが快適であるためか、パソコンで仕事をしている人は少ないそうだ。フライト中はゆっくりと過ごしている人が多いとのことである。

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昨今、航空機のトラブルが相次いでいるが、同社が現在保有しているエアバス3機は全て新造機だ。これは、新造機は中古機に比べて故障が少ないこと、そして整備費用も少なくて済むことから、トータルコスト低減を目指して導入したものである。
今後は、来年4機目を導入、1日15往復への増便を考えている。また同年中に、もう1機の導入を計画し、国内の中部、札幌、那覇などへの就航を視野に入れるなど、当面は新北九州空港を足場に、経営基盤を築いていくことを考えているようだ。
しかし、大手との競合は既に始まっており、日本航空は羽田-北九州便の料金を期間限定で、最大45%値下げした。同社では、最安値で9,800円の運賃を設定しているが、競争はますます激しくなるだろう。

モノづくりのまち「北九州」をアピール

空港ターミナルビルは、最新の設備を導入するとともに、今後の利用者数増加に対応できる拡張性を考えた構造としていることが特徴だ。

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ビルの1階は、エントランスフロアと到着フロアになっている。この階にある総合観光案内 所では、人気アニメ「銀河鉄道999」のキャラクター「メーテル」をモチーフとした案内ロボットが活躍している。これは、北九州産業学術推進機構などが中 心になって製作したもので、カーナビで使われる人工頭脳を搭載し、約100種類の会話に対応できる。体内には電波時計を内蔵し、現在時刻にあわせたバスの 時間案内などもできる。

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同じフロアには、九州工業大学が開発した、インタラクティブ(双方向)テレビモニター「画 楽」も設置されている。これは、70インチの大型モニターの前に立つ人の動きに合わせて映像表示や、音を発することができるもので、人の動きを取り込むこ とにより印象付けを強くする効果があり、現在は観光案内などで利用されている。
このような最新のロボットやIT技術を駆使した機器はモノづくりのまち「北九州」のアピールに一役買っている。

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2階は、出発フロアとなっている。中心部には、日産自動車九州工場が自動車のカットモデルを展示し、また、安川電機の溶接ロボットも据え付けられるなど、ここでもモノづくりのまち「北九州」をアピールしている。

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3階は、展望デッキとレストランフロアとなっている。北九州市内に多い立ち飲みの「角打(かくう)ちコーナー」も設置されており、九州各地の焼酎をはじめ160種類以上のお酒が揃っている。
また、展望デッキには足湯が設置されており、利用者からは好評を博しているようだ。

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順調な滑り出し

新空港の就航便数は現在のところ、国内線では、羽田便1日17往復、名古屋便1日3往 復、那覇便1日1往復、国際線では上海便週3往復となっている。また、夏季にはウラジオストク航空も就航予定だ。さらに貨物便として8月にギャラクシーエ アラインズが、深夜・早朝便の就航を目指している。
開港後1ヵ月間の搭乗率は、羽田便61.5%、名古屋便70.1%、那覇便73.6%と順調だ。国際線では、上海便が42.5%だった。利用者数は、12万人と初年度目標の12%に達し、順調な滑り出しといえるだろう。

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福岡空港との役割分担を

新北九州空港の開港により、移動手段の選択肢が増えた。また、競争による実質運賃の値下がりなど、新空港開港によるメリットもでてきている。「利便性の高まりと、運賃の低下という果実を利用者が享受できること」、これが新空港開港の成果といえるだろう。
福岡県には、福岡空港と新北九州空港の2つの空港がある。福岡空港には、主要地域拠点空港としての役割があり、中心市街地に近く便利であるが、それゆえに 騒音などの環境面などから運用が制限される。また需要が多い反面、ダイヤの過密化が問題とされ、海岸部への移転を含む対応策が検討されている。これに対し て、新北九州空港は21時間運用の利便性が特徴である。
この2つの空港がそれぞれの特徴を生かし、機能を補完し合うことによって、新北九州空港の強みがますます発揮されることにより、東アジアの物流拠点、西日本・九州の新たなゲートウェイとして発展することを期待したい。

(池田 隆)

 

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