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愛媛の近代化産業遺産を訪ねて

砥部焼の里に残る大水車 -砥部町川登 登山窯水車小屋-(2005年7月)

2005.07.01 愛媛の近代化産業遺産を訪ねて

新「伊方町役場」

愛媛県内各地には、明治から昭和戦前期にかけて近代化を支えてきた建造物が多数点在します。これらの近代化遺産は、都市開発や産業構造の変化に伴い、数を減らしていますが、地域の優れた文化遺産として、今なお、輝きを失っていないものも数多く残っています。
 今回から「愛媛の近代化産業遺産を訪ねて」と題して、こうした近代化遺産のうち、主に産業の発展に関連の深い文化遺産を紹介します。第1回は、砥部町川登にある登山窯(とざんがま)(創設時は宮ノ瀬窯)の水車小屋です。

 

砥部焼を支えた“縁の下の力持ち”

砥部焼は、江戸時代中期(1700年代)から始まった磁器である。砥部焼作りには、原料の「陶石」を細かく砕いた「陶土」が使用される。陶石を砕き、陶土を作る動力として水車が利用された。水車がなければ、砥部焼を作ることができず、水車は、いわば“縁の下の力持ち”として砥部焼を支えた。
 江戸から明治期には、砥部川上流で新しい陶石が見かり、その度に近くに水車が造られ、水車の数は通算48基にもなったそうである。

 

大水車は従来型の3倍、10馬力を発揮

明治期に設置された水車は、太鼓水車ともいわれ、砥部川から引いた水を水車の上部にかけて回す仕組みであった。その動力を利用して杵を上下に動かして陶石を砕く「乾搗(かんづき)」を行い、その馬力は3馬力程度だった。
 現存する登山窯の水車は、直径5.2mもの大水車である。明治中期に設置され、当初は松材を使った木製であったが、大正末期に鉄製に変わり、それまでの乾搗に加えて、水の中で陶石を砕いて粘土分と砂に分ける「水搗(みずづき)」も同時に行うことができるように改良された。最大10馬力の能力を発揮し、後に追加された陶石を細かくするローラーミルやオイルポンプも同時に動かすことができた。
 それまで、粉塵が舞うため人里離れた場所で行われていた「乾搗」と窯元で行われていた「水搗」などを一箇所で行うことができるようになり、作業工程の効率化が図られたのである。

 

国の登録有形文化財に指定

「乾搗」や「水搗」などが同時にできる大水車は、7~8基設置されたそうだが、現在では川登地区の登山窯に1基残るだけである。
 現在、水車小屋を所有・管理しているのは、登山窯当主の佐川巖氏である。水車小屋を設置したのは当時宮ノ瀬窯を開設していた佐川氏の祖父に当たる佐川廣太郎氏であった。この大水車は、鉄製に変わった後も、鉄板を2回張り替えるなど、修理しながら使用されてきたが、5~6年前から使われることはなくなり、動きを止めた。
 役目を終えた水車であるが、文化庁が全国の文化財の見直しを行う中で、その価値が認められ、2003年に国の登録有形文化財に指定された。ただし、登録有形文化財として脚光を浴びたものの、佐川氏によれば、水車の維持には鉄板のペンキ塗り替えなどが必要となるため、再び稼動させることはなかったそうである。

「乾搗」と現在の登山窯当主の佐川巌氏

「乾搗」と現在の登山窯当主の佐川巌氏

 

「陶街道五十三次」によみがえる水車

しかし、今年1月の新砥部町の誕生が水車をよみがえらせた。というのは、砥部町の新たな観光施策「陶(とう)街道(かいどう)五十三次」の資源の1つに水車小屋が指定されたためである。「陶街道五十三次」は、旧砥部町と旧広田村にまたがる53の地域資源をスタンプラリー形式で回る、地域活性化を狙った取り組みである。特に、この大水車は、昨年の度重なる台風によって川床に土砂が堆積したため、文字通り動けなくなっていたが、今回の取組みのための関係機関の尽力で土砂が取り除かれ、再びゆったりと回り始めたのである。

 砥部町の各所には、「陶街道五十三次」の青い旗がたなびき、スタンプウォーク客の立ち寄る姿が目に付く。大水車をはじめとする地域資源には、外側を眺めるだけではその価値が十分理解されないものも多い。とりわけ大水車は、「乾搗」の杵を持ち上げる動力として利用されている姿があってこそ、その価値が理解され得るものである。
 今回の取組みを機に、所有者の努力だけでなく、業界や行政など関係者の協力で、大水車が回り続け、再び砥部焼きの里のまちおこしの原動力となってほしいものである。

(黒田 明良)

【参考文献】
『愛媛温故紀行』 編集発行 財団法人えひめ地域政策研究センター(2003年)
『陶街道五十三次 しらべ帖』 編集発行 (株)えひめリビング新聞社、監修 砥部町

登山窯 水車小屋 の概要

住所:伊予郡砥部町川登708
電話:089-962-2034
見学時間は8~17時。水車小屋内部の見学は声をかけてから行う。

「陶街道五十三次」のスタンプ台

「陶街道五十三次」のスタンプ台

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