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くろーずあっぷその他

宇和町「末光家住宅」の一般公開始まる “「重伝建」選定促進、保存技術の伝承、ポスト町並博”高まる3つの期待(2005年2月)

2005.02.01 くろーずあっぷその他

no067

 2年の歳月をかけて修復された西予市指定文化財「末光家住宅」の一般公開が昨年11月から始まった。今回は、江戸中期から昭和初期の建物が建ち並ぶ西予市宇和町中町にあり、行政の補助に頼らず全額私費で修復された「末光家住宅」の一般公開の模様と高まる同住宅への期待などを紹介したい。

明和7(1770)年創建の豪壮な町家

 12月5日(日)の午後1時半から行われた第2回目の一般公開には、県内各地から50名近い参加者があった。当日は、当家代表の末光大祐氏や今回の修復に尽力された松山東雲短期大学教授で愛媛県建築士会文化財委員会委員長の犬伏武彦氏から建物の建築様式や修復技術などの説明があり、参加者は熱心に耳を傾けた。また、蛇腹式すり戸や土間と中店を仕切る回転式の格子戸など、滅多に目にすることのない造りに目を見張った。
 さて、修復なった「末光家住宅」の概要を簡単に説明すると、建築期は明和7(1770)年で築後235年目となる。宇和清沢村の庄屋だった末光家は、宝永6(1709)年に宇和町の中町に移り、大正初期まで酒造業、昭和12年までしょうゆ製造・販売業を営み、18代目の故千代太郎氏は、愛媛県商工会議所連合会会頭や伊予銀行頭取(昭和23~49年)を務めた家系である。
 現存の建物は間口8間(約16m)奥行き6.5間(約13m)あり、江戸期の町家に多い間口が狭く奥行きの長い商家造りに比べれば、通りに面して店と座敷が並列するほど間口が広い、とても豪壮な町家である。明和7年以後、明治28(1895)年に家族構成の変化などで改築された他、折々に手が加えられているものの、大半は建築時の姿を残している。また、「末光家住宅」は中町の他の町家に間取りや屋根などの形態、デザイン面で大きく影響を与えた建物でもある。創建から230年余り、改築からでも110年を経過した建物は傷みもあり、修復にはおよそ2年の歳月が費やされた。

 

「重伝建」選定促進など期待される3つの効果

 今回の「末光家住宅」の修復と一般公開は次のような地域への波及効果が期待されるのではないだろうか。
 まずは、国の重要伝統的建造物群(重伝建)選定を目指す動きを大きく後押しすることである。西予市では合併前の宇和町が平成5年から予算を組み、文化財保護の観点から中町の伝統的な建築物を毎年1~2件修復してきた。今後は文化財保存の対象地域を2haから5haに一気に拡大し、国の重伝建地区の選定を受けることを目指している。今回の「末光家住宅」の修復・公開の取り組みは、これまで以上に町並を貴重な文化財として保護・保存する動きにつながることと期待される。選定を受ければ、県下では内子町の「八日市護国伝統的建造物群保存地区」に次ぐ地域となる。
 2番目は、今回の修復により技術伝承が図られたことである。実質的な修復工事を宇和町の業者に任せたことで、地元の伝統家屋保存技術育成に貢献した。愛媛県内には、豪農ぶりを伝える「豊島家住宅」(松山市)や林に囲まれ静かなたたずまいの「旧庄屋毛利家」(三間町)など、長い歴史を経て再建・修復された古民家や今なお、修復の手を待つ古建築物が少なからずある。今回蓄積された技術や取り組みは、こうした古民家、古建築物の再生に今後大きな力となることが期待される。
 3番目は、平成16年4月から10月末まで189日間にわたって開催された「えひめ町並博2004」閉幕後の新たな集客施設、いわばポスト「町並博」の目玉としての期待である。「えひめ町並博2004」はハコモノに頼らず、南予地域に残る町並を主会場に県・市町村、地域住民が重層的に取り組むイベントで174万人の来場者を集めた。町並博終了後は各地域の自主企画グループが継続的に事業展開することが期待されているが、宇和町では新たに「末光家住宅」公開というイベントが加わったのである。「末光家住宅」は町並博の主会場の1つであった宇和町中町のほぼ中央にあり、残念ながら町並博開催期間中の公開には間に合わなかったものの、日常的に公開が実現すれば、国指定の有形文化財である「旧開明学校校舎」等に劣らない建物として、多くの来場者の関心を集めるに違いない。

先人の足跡を紹介する第19代当主末光大祐氏

先人の足跡を紹介する第19代当主末光大祐氏

 

先人の進取の精神に学ぶ

 第19代目の当主にあたる末光大祐氏は、建物の公開にあたり、内部の見学だけではなく、宇和町の歴史や多くの先人たちの抱いた志や業績なども、史実を掘り起こして参加者に伝えようとしている。
 12月5日の見学会では、卯之町教会の設立に尽力するなど宇和町の教育基盤の一端を築いた清水判三郎や末光類太郎の足跡が紹介された。同氏の思いは、西予市の重伝建地区の選定や観光振興を願うばかりでなく、郷土の礎をつくり、古くより広く世界や全国に目を向け大志を抱いていた先人達の精神を現在に伝え、これからの郷土の発展を担う我々を鼓舞するようにも見える。
 今回の「末光家住宅」の修復や公開は、所有者や保存活動に取り組む人達の手によって進められている。こうした民間主体の取り組みが行政の文化財保護等の支援に加わることとなり、交流人口の増加や人材育成にまでつながり、中町の町並保全や地域活性化を一層促進する動きに広がることを期待したい。

(黒田 明良)

hp_link_suemitsu末光家住宅
所在地:愛媛県西予市宇和町卯之町3丁目179-2
URL:http://homepage2.nifty.com/dsue32/

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