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愛媛が誇る世界一・日本一

「紙のまち」に育まれた技術力で世界にはばたく! - 家庭紙用抄紙機の生産日本一 - 川之江造機株式会社(川之江市)(2004年3月)

2004.03.01 愛媛が誇る世界一・日本一

 特定分野で世界一あるいは日本一のシェアを誇る製品を持つ企業を“くろーずあっぷ”し紹介する「愛媛が誇る世界一、日本一企業」シリーズ。
 第10回は、家庭紙用抄紙機の開発・製作において日本一を誇る紙パルプ機械の総合メーカー、川之江造機株式会社を訪ねた。

家庭紙用抄紙機のトップメーカー

 紙は、木材などの繊維から作られるが、水の中でバラバラにほぐされた繊維質をすのこや網などですくい取り、平らにのばしていく作業を、紙を「抄く(漉く)」という。昔は、手作業で漉かれていたが、現在では手漉きの紙は少なくなり、ほとんどが機械抄きによる大量生産となっている。
 当社は、家庭紙(ティシューペーパーやトイレットペーパーなど)用の抄紙機の開発・製作において圧倒的なシェアを誇り、その機械は、地元を中心に、国内だけでも50を超える製紙メーカーに延べ100台以上納入されている。日本で生産されるティシューペーパー、トイレットペーパーの6割超が、当社製の抄紙機により作り出されたものである。
また、「抄く」だけでなく「巻く・切る・折る・包む・砕く」という紙製品の製造に関わるあらゆる機械を手がけており、ロール状に巻かれた印刷用紙や新聞用紙を全自動包装する巻取包装機でも、全国トップの生産実績を誇っている。これまでに約60台の全自動巻取包装機を納入しており、国内市場は当社の独壇場である。
 紙パルプ業界は典型的な装置産業であり、技術革新と設備投資が重要な部分を占める。それだけに、紙パルプ機械の総合メーカーとして、多岐にわたる高度な技術・ノウハウを有する当社は、宇摩地区のみならず、全国の「紙のまち」にとってなくてはならない存在となっている。

軍需工場から紙パルプ機械メーカーへ

 当社の創業は1944年(昭和19年)11月である。海軍監督工場として呉海軍工廠に所属し、魚雷の製作にあたっていたが、終戦を機に民需工場への転換を図った。地元製紙メーカーに対する機械メンテナンスや部品供給などを足がかりに、簡単な製紙機械の製作に携わり、徐々に紙パルプ機械メーカーとしてのノウハウを蓄積していった。
 1952年に、初の自社製品となる特殊和紙(薄葉紙、書道紙など)用の抄紙機一式を開発し、地元の製紙メーカーに納入したところ、非常に評判が良く、その後、他の地元製紙メーカーや高知県の製紙メーカーからも引き合いが続いた。こうしたオリジナル製品の開発により、当社の技術力が評価されるようになった。

家庭紙用抄紙機への参入

 1960年代に入り、日本は高度成長期へ移行し、生活様式にも変化があらわれ始めた。それまでのちり紙に代わり、家庭ではティシューペーパーやトイレットペーパーが使われ始めた。
 1963年に日本で初めてティシューペーパーが販売されて以降、ティシューペーパー、トイレットペーパーの需要が増加し、宇摩地区の製紙メーカーにおいても、これらを製造する業者が増え始めた。とはいえ、家庭紙は、現在でも日本国内で生産される紙・板紙の5%程度を占めるに過ぎず、印刷・情報用紙や新聞巻取紙用の大型抄紙機を取り扱う大手重工メーカーは、家庭紙用抄紙機の開発・製作にはそれほど力を入れていなかった。このため、家庭紙の製造においては、機械化・自動化が遅れていた。
 このような状況の中、当社は地元製紙メーカーの期待に応えるべく、家庭紙用抄紙機の開発・製作を手がけ始める。大手の参入が少ないこの市場が、当社にとっては最も適した規模であるという判断もあった。
 1970年、当社はこれまでに蓄積されたノウハウと技術力を結集し、オリジナル製品の開発に着手した。そして3年後の1973年4月に、画期的新製品「ベストフォーマ」の第1号機が完成した。
 フォーマというのは、抄紙機の中枢にあたる部分で、紙の原料液を網に吹き付けて繊維質をからませ、水分を吸い取ってシート状に形成する(form)仕組みになっている。当社のベストフォーマは、従来型のフォーマに比べ、吸水の速さ(=抄造の速さ)と地合の均一性に優れていた。当社はこのベストフォーマで特許を取得し、ベストフォーマを組み込んだ「ベストフォーマヤンキー抄紙機」を開発した。現在まで続くベストセラー抄紙機の誕生である。

家庭紙製造設備の一貫メーカーへ

 当社の開発した家庭紙用抄紙機は、やわらかくて風合に優れた紙を生み出し、中小家庭紙メーカーに大変好評であった。技術力の高さが認められると、当社に対する期待は、抄紙機からさらに周辺の工程へと広がっていった。
家庭紙メーカーは、抄紙機の後工程としてティシューペーパーやトイレットペーパーの商品に仕上げる加工機を必要とする。中小家庭紙メーカーにあっては、この加工分野は合理化の遅れた工程であり、自動化・省力化が強く望まれていた。当社は、抄紙機に加え、ティシューペーパーやトイレットペーパーに作り上げる加工機を手がけるようになり、家庭紙製造に関わるあらゆる機械を総合的に組み合わせ提案していった。また、部品も極力内製化し一貫して手がけることで、細かな仕様変更などにも、確実にそしてすばやく対応することができた。
 こうして、当社は家庭紙用抄紙機・加工機の「総合一貫メーカー」として発展していった。当社のような総合一貫メーカーは、国内はもちろん、海外でも非常に珍しい存在だという。こうした多岐にわたる高度な技術力は、地元製紙メーカーだけでなく、宇摩地区と並ぶ製紙業のメッカである静岡県富士地区をはじめ、全国の家庭紙メーカーにも受け入れられた。
 「全国のユーザーさんに、四国の片田舎まで足を運んでもらうには、他社より優れたもの、より良い製品作りに挑戦するしかなかった」と篠原社長は語る。

現場で磨く「技術力」

 当社は、技術スタッフが全従業員の3分の1を占め、それぞれが自分の研究課題にチャレンジし、伸び伸びとした環境の中で業務に励んでいる。
 当社では、特に「現場で育てる」ことを重視しており、納入や試運転などには技術スタッフが必ず立会い、設計した機械が実際にどのように動くのか自分の目で確かめる。ミスや不具合をその場で確認し、その影響の大きさを肌で感じ取る。こうすることで、机上では身につかない生きた技術を体得することができ、さらに、現場の声を設計につなげていくことができる。

当社の設計室

当社の設計室

 また、「技術のKAWANOE」の看板を掲げる当社には、ユーザーからレベルの高い要求がつきつけられる。そこで「それはできません」と言ってしまえば、仕事はもう回ってこない。このような緊張感のもと、血のにじむような努力を繰り返しながら、ユーザーの様々なニーズに丁寧に応え続けていくことで、当社の技術力にさらに磨きがかけられた。
 当社はこれまでに60件以上の特許を取得した。また、紙パルプ技術の進歩や業界の発展に多大な功績をあげた技術や機器の開発企業に贈られる「佐々木賞」を、1988年と1999年の2度にわたって受賞している。いずれも、当社の技術力の高さの一端を表すものである。

第27回佐々木賞を受賞した「JW巻取包装機」

第27回佐々木賞を受賞した「JW巻取包装機」

分速2,000メートル

 時代の最先端のニーズに応えるための技術を、社内努力だけで磨きあげていくには限界がある。当社は、早い段階から外国企業との連携を進め、その先進的な技術を取り込んで成長してきた。1971年1月に、米国のFMC社とトイレットロール加工機等に関する技術提携を行ったのを皮切りに、カナダ、スウェーデン、イタリア、スイスなどの先進企業と技術提携を行っている。
 家庭紙用抄紙機においてはその抄造スピードにこだわった。当社は、この分野で世界トップクラスの開発実績と技術力を誇るスウェーデンのメッツォ社と提携し、1998年、「クレセント抄紙機」を開発した。
 ベストフォーマの抄造スピードが当時1,400m/分(ちなみに第1号機は350m/分)であり、国内最速は三菱重工業製の1,800m/分であったが、クレセント抄紙機はこれを上回る2,000m/分であった。1分間に200組入りティシューペーパーを約600個生産する世界最高水準の家庭紙用抄紙機の誕生であり、「納入台数だけでなく、提供する機械の性能でも、日本一の家庭紙用抄紙機メーカーとなりたい」という篠原社長の思いが実現した瞬間であった。

アフターフォローも充実

 当社に対する高い評価と信頼は、その技術力の高さ、機械自体の性能はもちろん、納入後のアフターフォローによるところも大きい。
 当社では、試運転に際して技術スタッフが納入先に赴き、十分に説明を尽くすとともに、メンテナンス要員が定期的にユーザーを訪問して、機械を点検する体制を確立している。このようなきめ細かなメンテナンスは、機械の寿命を延ばすだけでなく、トラブルを防止し、ユーザーに安定操業とコストダウンをもたらしている。
また、納入製品については、全ての製品の部品設計図を永久保存しているため、例えば30年前に納入した製品にトラブルが生じた場合でも、当時の図面を見ながら対応することが可能である。

海外市場へ果敢に挑戦

 当社のベストフォーマヤンキー抄紙機は、2003年6月に、国内外含めた納入実績が100台を突破し、業界に金字塔を打ち立てた。しかし近年は、家庭紙メーカーの設備投資が低迷しており、当社の紙パルプ機械も、国内向けはやや低調に推移している。
 このような状況下において、当社は海外に目を向ける。すでに、中国、韓国、台湾などで納入実績をあげており、特に中国市場は急拡大の方向にあると意欲を燃やす。さらには、東南アジアへの本格進出も視野に入れている。
世界には、メッツォ社やフォイト社(ドイツ)をはじめとするガリバー企業が存在し、国内にも大手重工メーカーをはじめ、売上規模や資金力において当社を上回る企業は多い。しかし当社は、家庭紙用抄紙機に特化し、卓越した技術力を誇り、その力が最大限に発揮できる市場を的確に把握して、会社を成長させていく術を知っている。
 技術力という翼を背に世界の空へ飛び出した当社の、今後のますますの発展を期待したい。

(福本 太一郎)

【会社概要】

篠原社長

篠原社長

代表者取締役社長 篠原 正能
本社所在地川之江市川之江町1514番地
資本金3,366万円
年商約41億円
従業員数180名
URLwww.kawanoe.co.jp

【会社沿革】

1944年川之江造機(株)設立
1959年中小企業庁より合理化モデル工場に指定される
1971年FMC社(米国)と全自動トイレットロール加工機に関して技術提携
1985年異種ロール対応型全自動巻取ロール包装機を開発
1986年全自動Wドラムワインダを開発
1986年1,400m ベストフォーマヤンキー抄紙機を開発
1988年第16回佐々木賞を受賞
1994年GL & V カナダ社(カナダ)と抄紙機に関して技術提携
1996年METSO PAPER KARSTAD社(スウェーデン)とティシューマシンに関して提携(1999年に技術提携)
1999年第27回佐々木賞を受賞(2度目)
2003年家庭紙用抄紙機で中国市場に本格進出

 

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