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くろーずあっぷ南予

広見町 地域産業の起爆剤を目指し広見町農業公社スタート(97年7月)

1997.07.01 くろーずあっぷ南予

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高齢者が地域農業を支えている

 広見町は宇和島市から国道320号線を車で約15分、稲穂の揺れる鬼北地区の中心地にある。
 四万十川の支流である広見川の恵みを受け稲作が盛んであるが、95年農業センサスによると1戸当たりの耕作面積は64aと小さく、生産者も減り続け、農業就業者数に占める60歳以上の割合は77%に、農家の71%は第2種兼業農家で占められている。地域の農業は今や大部分が小規模農家と不安定な兼業農家と高齢者によって担われており、多額の資金が注がれて整備されたほ場が耕作放棄の危機にさらされている。

 

期待を担って農業公社発足

 こうした状況に対処するため6年の研究期間を経て、今年3月に社団法人広見町農業公社が設立された。出資会員は町、鬼北農協(現在のえひめ南農協)、営農組合協議会の3者で出資金の総額は55,100千円である。
 主要業務は、農作物の受委託と担い手育成のための研修、都市と農村との交流事業であり、最終の目的は業務を通して地域農業の振興と活性化である。
 執行体制は、事務局長(町の派遣職員)と21~40歳の若手で構成された4人の機械オペレーターからなっている。当初オペレーターは3人の構想だったが1人追加となり公募された。この募集に10人を超える応募があり関係者を驚かせている。4人のオペレーターが技術を高め自らが独立して地域農業の担い手になったり、新たに研修希望者を受け入れたりして公社がインキューベーター(保育器)の役割を果たす期待は大きい。

 

受託者の急増が予想される

 委託者のメリットは、自分の労力に合わせて作業量を軽減でき、収入を得られることである。
 一つの試算がある。品種をこしひかりとして10a当たりの収量480kg、60kg当たり米価18千円、公社への委託費48千円とすると米販売収入から経費を引いた差額は58,700円となる。平均64aの農家が60aを委託すると35万円余の収入となる計算である。全面委託はできないため施肥2回、防除5回と水管理作業は委託者の仕事として残るものの地区の農業委員会が設定する標準小作料2万円(10a当たり)に比較しても割の良い収入となる。公社の基本料金は、地域の担い手農家の作業手数料よりは高く設定され、担い手農家の仕事を奪うことのないよう調整されている。
 公社という信用と労力の軽減、委託料を差し引いた収入から考えれば、特に兼業農家からの委託急増が予想される。

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採算性確保に向けて観光農園の取り組みを

 主な課題は「耕地分散に伴うコスト増加」と「農閑期の余剰労働力の活用」と指摘されている。大型機械を導入した効率性の強みを生かせるのか、通年雇用を果たすために農閑期の仕事をどうするのかの2点である。人の背丈をはるかに越える自脱型のコンバインや6条植えの高速田植機は1日当たり1.5haの作業をこなすものの、ほ場が分散すれば大型なだけに移動費が嵩みコスト高となる。公社といえども採算性の悪いほ場の委託をいかに絞ることができるかが鍵となる。
 余剰労働力の課題では、冬場の仕事の確保ができないことが挙げられる。公社は耕作地を所有または貸借した経営ができないため、施設型を主とした通年労働体制が難しい。解決策として、公社と実質的に一体となる有限会社を設立し、有限会社が借地によって園芸中心の経営を行ない、公社に作業委託する計画がある。公社が実質的に施設型の経営ができれば観光農園や農産加工にまで分野を広げ、都市と農村との交流事業にまで発展させたい構想である。

 

育て、中山間地の農業関連産業

 愛媛県内には公社ではないが、農作業の受託を中心に企業化している事業者がある。松山周辺では4人の農業者が有限会社を設立し、米23ha麦20haの作付け(借地)と延べ28haの米の作業受託を行ない、年間6千万円を超える売上にまで拡大している。松山近郊では委託者も多く、裸麦の主産地でもあることから冬場の作業委託もあり、合わせて機械器具の修理依頼等も相当数あるなど条件に恵まれている。
 広見町のような中山間地域では、資金を借りてでも企業化しようという事業者がいないために町が介在する公社に頼るわけである。しかし広見町農業公社の誕生に伴い、公社で働きたい、自分の息子を預けたいという声が農家、非農家を問わず挙がっている。特に農外者にとっては、就農意欲があってもこれまでは実質的には門が閉ざされているに近い状態であったため、門戸を広げる意味も大きい。
 産声をあげたばかりの広見町農業公社には課題も多いが、一つ一つ克服して、若者を呼込み地域産業を芽吹かせる起爆剤となる期待が脹らんでいる。

(黒田 明良)

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