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知る人ぞ知る愛媛の観光地

【伊予編】地域の宝となった下灘駅

2018.05.01 知る人ぞ知る愛媛の観光地

地域の宝となった下灘駅

下灘駅駅舎

下灘駅駅舎

 伊予市双海ふたみ町にある「下灘しもなだ駅」。『日本一海に近い駅』として知られ、とりわけそこから見える夕日は愛媛を代表する絶景である。
 多くの観光客が訪れ県内屈指の人気スポットとなった下灘駅だが、もともと知名度が高かったわけではない。観光客が訪れ始めたのは10数年前からの話で、それまでは「寂れた無人駅」だった。
 すっかり有名になった下灘駅だが、今回はその「知る人ぞ知る」エピソードを交えて紹介しよう。


地元客の足が遠のき、廃線が危ぶまれる

無人化前の下灘駅の様子

無人化前の下灘駅の様子

 下灘駅は1935年(昭和10年)に開設した。かつては人々の交通手段としてだけでなく、ミカンを運搬する物流拠点としての役割も果たしていた。現在、駅の利用者の多くは観光客であるが、昔は地元住民が通勤や通学などで利用しており、駅員も10名近く勤めていた時代があったようだ。

 しかし、自家用車が普及し国道が整備されたことで、地元住民による利用は減少した。さらに新線開通(内子線)や採算の見直しなどで1986年に無人化し廃線も危ぶまれるほどとなっていた。

下灘駅に訪れた転機

 そんな下灘駅だったが、JRが発売する「青春18きっぷ」のポスターに1998年から2000年にかけて3度採用されたことが転機となり、さまざまなメディアで取り上げられるようになった。それまでは景観が良い駅として、一部の鉄道ファンが訪れる程度であったが、ドラマやCMを見て訪れる観光客が増加した。また、インターネットが普及しブログやSNSで拡散されたことが、その動きをさらに後押しした。

立ち上がった地元住民

地元住民のおもてなし

地元住民のおもてなし

 当初は地元住民も「なぜ何もない駅なのに、わざわざ遠くから訪れるのだろうか」と首をかしげていたそうだ。しかし、下灘駅がいかに素晴らしい駅かを観光客から聞くうちに、「地域の宝」として大切にしなくてはならないという意識が芽生え始めた。多くの人が訪れるようになった下灘駅だが、無人駅であるため整備をする人がおらず、雑草が生い茂り荒れ果てたままであった。この状況を何とかしようと地元の「日喰ひじき老人会」が立ち上がり美化活動が開始された。老人会に所属する方々は下灘駅が地元客で賑わっていた時代を知っている人たちだ。
 荒れた構内は美化活動により、夏にはひまわり、秋にはコスモスの花が咲く美しい駅へと生まれ変わった。駅周辺にはゴミ1つ落ちていないが、毎日地元住民の方が掃除をしてくれているおかげだ。今の下灘駅があるのは彼らの支えがあってこそなのである。
 また、駅に列車が到着した際には乗客に向かって手を振りお出迎えしたり、ミカンを販売するなどしておもてなししている。乗客との交流は地元住民の生きがいとなっている。


さまざまな思いが詰まったノート「ウッフッフ」

 駅の待合室で目を引くのは表紙に大きく「ウッフッフ」と書かれたノートだ。下灘駅を訪れた人に思わず笑みがこぼれるような、自分だけが感じたことを書いてもらいたいという思いから「日喰老人会」の会員が置いたもので、その数は2018年3月時点で累計50冊近くにもなる。
 ノートを開くと、人々のさまざまな思いがつづられている。外国語で書かれたページも多く、海外からも観光客が訪れていることがわかる。海沿いの小さな駅はさまざまな人たちの思い出の地となっている。


らぶらぶベンチ

 待合室を出ると左手に「らぶらぶベンチ」というベンチがある。ベンチの座面や背もたれは中央に向かって斜めになっており、離れて座っていても自然と体がくっつく構造になっている。カップルにはここに腰掛けて、下灘駅から見える美しい風景を眺めることをお勧めしたい。

「下灘珈琲」で至福のひと時を

 駅の目の前にはもともと小さな売店があったが、地元客の利用が減ったため閉店してしまった。
 観光客が増え始めてからも周囲には自動販売機が1台あるだけで商店や飲食店はなく、人々は次の列車が来るまでの数時間、景色を眺めたり写真を撮ったりして過ごしていた。
 そんななか昨年4月にオープンしたのが「下灘珈琲」である。キッチンスペースのあるリヤカーを利用したおしゃれな外観で、そこで飲めるコーヒーはハンドドリップで淹れられたこだわりの逸品となっている。美しい風景を眺めながらコーヒーを飲むのは、まさに至福のひと時である。下灘駅を訪れる観光客のほとんどが購入するため、列車が到着した直後には行列ができていた。下灘駅を訪れた際は是非この店のコーヒーを味わっていただきたい。

営業時間:11:00~日没(土日・祝)
     14:30~日没(平日)
※平日は雨天閉店。営業時間の詳細はfacebookページでご確認ください。
写真のホットコーヒー 1杯350円

ロケ地として有名な駅に

 下灘駅は1977年に公開された映画「男はつらいよ」シリーズの19作目「寅次郎と殿様」で全国に知れ渡るようになった。しかし、そこからしばらくはロケ地として利用される機会には恵まれなかったようだ。
 その後、前述の青春18きっぷのポスターとして使用されてからは、ドラマや映画、アニメのワンシーンで利用されるようになる。最近ではNHKの「ドキュメント72時間」やドラマ「リバース」が撮影されたことで話題となった。また、日本だけでなく海外のメディアでも取り上げられているようだ。

下灘駅 主な登場作品

作  品  名
1977年映画「男はつらいよ『寅次郎と殿様』」
1998〜2000年ポスター「青春18きっぷ」
2006年ドラマ「HERO 特別編」
2013年アニメ「境界の彼方」
2016年ドキュメンタリー
「ドキュメント72時間」『四国海だけの小さな駅で』」
2017年ドラマ「リバース」

ちょっと足を延ばして 海に沈む線路

 下灘駅から徒歩15分ほどにある「しもなだ運動公園」。その近くの海岸には海に向かって続く線路が敷設されている。といってもこの上を列車が走っているわけではない。かつて造船所で造られた船を運搬するために使われていた。この線路が映画「千と千尋の神隠し」のワンシーンを彷彿させるとして、密かに話題となっている。インスタグラムで「#下灘駅」と検索すると、駅の写真とともに線路の写真がいくつか投稿されている。


地元住民も集う場所に

夕焼けプラットホームコンサート

夕焼けプラットホームコンサート

 毎年9月の第一土曜日には、下灘駅のホームはコンサート会場へと変わる。「夕焼けプラットホームコンサート」は下灘駅を残したいという人々の思いから1986年に始まった。今では人気のイベントとなっており、32回目となった昨年は地元住民を中心に500人を超える人々が足を運んだ。
 その他にも結婚式や演劇、下灘駅フォトコンテストなど数多くのイベントが開催され、大人だけでなく多くの子どもたちも参加している。下灘駅には観光客だけでなく、地元住民がかけがえのない時を過ごす場所としての顔もある。


 かつては「寂れた無人駅」だった下灘駅だが、多くの観光客が訪れるようになり、同時に地元住民が下灘駅を誇りに思う気持ちも高まった。そして「地域の宝」となったこの駅を訪れた観光客が、その素晴らしさを広め、新たな観光客を呼ぶ好循環が生まれている。
 まだ行ったことのない人は足を運んでみてはいかがだろうか。その絶景はあなたの心に必ず刻み込まれることだろう。

(渡辺 勇記)

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