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西日本レポート

日本初!最先端のIoTデバイスを集めたスマートホステル ~福岡市・& AND HOSTEL~

2016.10.24 西日本レポート

 	日本初!最先端のIoTデバイスを集めたスマートホステル ~福岡市・& AND HOSTEL~

 IoT(Internet of Things)の大きな波が押し寄せてきている。IoTは、モノに対して各種センサーをつけ、インターネットを介してその状態をモニタリングしたり、モノをコントロールしたりすることによって、安全で快適な生活を実現しようとするものだが、あまりピンとこない方も多いのではないだろうか。今回は、そんなIoTデバイスを実際に使いながら宿泊できる、日本初のスマートホステル「& AND HOSTEL」を取り上げる。
※ホステルとは、ホテルとは異なり、二段ベッドなどを使用する相部屋があったり、シャワー、トイレなどが共同使用の施設を指す。

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&AND HOSTELの特長

 & AND HOSTELは、今年の8月19日に福岡市の川端通商店街にオープンした。11種類の最先端IoTデバイスを1ヵ所に集結させた体験型宿泊施設で、部屋自体がエンターテインメント空間となり、宿泊体験が観光目的の1つとして楽しめる。詳細は後述するが、例えば、スマートフォンを使って、部屋の開錠操作ができたり、フロントとつながるロボットとメッセージをやりとりできたりする。こうした体験ができるIoTルームは全4室備えられ、そのほかドミトリールームも用意されている。
 オープン以降、週末の稼動率は9割を超えるなど非常に盛況という。

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&AND HOSTEL誕生の背景

 & AND HOSTEL誕生の背景について、事業主でIT関連事業を手 掛ける株式会社BIJの木地(きじ)貴雄社長は、「日本を訪れる外国人が近年急増していることから、外国人観光客をメインターゲットに、宿 泊業を始めたいと考えていたが、私たちは後発組。施設を利用してもらうための特長をどうやって作り出すか考えた時に、強みであるIoTを活用することを思いついた」と語る。

株式会社BIJ木地社長

IoTデバイスはほとんどが無償提供

 11種類ものIoTデバイスが体験できると聞くと、宿泊料金が心配になるが、上記「& AND HOSTELの特長」の表のとおり宿泊料金は一般のホテル並みになっている。実は、このホステルで体験できるデバイスのほとんどは製品を開発している企業から無償で提供されており、宿泊料金が安価に抑えられているそうだ。開発企業は、製品を提供する代わりに、ユーザーデータのフィードバックを受けられ、製品開発に活かすことができる。& AND HOSTELが「製品の実証実験の場」になる仕組みだ。
 木地社長は、「これだけのIoTデバイスを、個人が家庭で利用しようとすると60~70万円は必要。ユーザーにとっては、これらをまとめて体験できるメリットは大きいし、IoTデバイスメーカーにとっても、格好のマーケティングの場になる」と話す。

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スマートホステルを体験する ~開錠~

 実際に、スマートホステルに宿泊すると、どのようなことが体験できるのか、いくつかご紹介したい。
 まず、ホステルに入ると、受付でスマートフォンが渡される。冒頭でも紹介したとおり、& AND HOSTELでは、この端末がカギの代わりとなる。
 端末を見ると、カギの開閉をする「DOOR」や、テレビやエアコンの操作ができる「iREMOCON」のほか、「ALARM」や「NIGHT MODE」などのアイコンがある。

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 受け取った端末で、早速ドアの開錠操作をしてみると、カギが開き、部屋の照明が点灯した。部屋に入れば、同時に照明をつけることが多いため、とても便利な機能だ。逆に施錠すると、同時に消えるため、照明をつけっぱなしで外出する心配もない。

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スマートホステルを体験する ~デジタル窓~

 ドアを開けると、真っ先に目に入るのが、「Atmoph Window」だ。このデバイスは、部屋にいながら世界の美しい風景を楽しめるデジタル窓で、宿泊施設への導入は& AND HOSTELが日本で初めてだそうだ。例えば、写真のような日本の桜の風景で出迎えれば、外国人の観光客は喜んでくれるだろう。さらに、画像だけでなく、風景の説明文 や地域の観光情報なども表示できるため、宿泊客がその土地の情報を取得する良いツールとなる。

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スマートホステルを体験する ~照明~

 部屋の内装は、白を基調としたシンプルなものだが、照明はスマートLED「Philips Hue」で、好みの雰囲気にカスタマイズできる。Philips Hueは1,600万色以上の調光が可能だが、& AND HOSTELでは事前に数種類の色を設定しており、そこから好きな色に変えることができる。タイマーを使えば、「光の目覚まし」にもなる。

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 部屋の内装は、白を基調としたシンプルなものだが、照明はスマートLED「Philips Hue」で、好みの雰囲気にカスタマイズできる。Philips Hueは1,600万色以上の調光が可能だが、& AND HOSTELでは事前に数種類の色を設定しており、そこから好きな色に変えることができる。タイマーを使えば、「光の目覚まし」にもなる。

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スマートホステルを体験する ~その他の機器~

 そのほかにも、睡眠に適した音や光、事前にセットした好みの香りを発する「Sleepion」や、メッセージのやり取りができ、フロントともつながる「BOCCO」なども準備されている。
 また、ハンズフリーでさまざまな情報を取得できる透過式メガネ型端末「Smart Eyeglass」を借り、装着して街に出かければ、日常の川端通商店街の風 景の中に、博多の夏の風物詩である「博多祇園山笠」の様子を映し出して楽しむこともできる。

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ホステル1階にはダイニングカフェを完備

 最先端のIoTデバイスが詰まった& AND HOSTELは、宿泊客の7割をメインターゲットである外国人観光客が占めると見込まれている。宿泊する外国人との交流の場として、ホステル1階には、IoTダイニングカフェが設けられ、人々が交流できる空間も整備されている。
 ダイニングカフェには、見守りカメラが設置されており、ホステルの部屋からはカフェの様子が確認できるようになっている。カフェがにぎわってきたら、IoTルームを飛び出して、多国籍の人々でにぎわうカフェで交流を深めるのも楽しいかもしれない。

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スタートアップのまち・福岡市

 近年、福岡市には、LINEやサイバーエージェントなどIT企業が多数進出している。
 福岡市は、若者(15~29歳)の人口比率が政令指定都市中ナンバーワンの19.5%に達するほか、人口も増加を続けるなど豊富な人材を抱えている。オフィス賃料も東京の約6割で済むなどビジネスコストも安く、スタートアップ(創業)しやすいまちとなっている。
 そこで、福岡市では、2012年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言するなど、早くからスタートアップ支援に取り組んできた。2014年には、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、様々なスタートアップ支援に取り組んでいる。
 今回のホステル開業に際して、福岡市が国家戦略特区であることが開業の決め手となったわけではないが、「大学との連携が非常にスムーズに進むなど、スタートアップ企業を支援する土壌が整っているのではないか」と&AND HOSTELの担当者は話していた。
 福岡市の担当者も、「創業支援拠点『スタートアップカフェ』の開設など様々な取組みにより、“スタートアップといえば福岡市”との認知が進みつつあり、開業率も3年連続で政令指定都市中ナンバーワンとなっている。これからも『グローバル創業都市・福岡』の実現に向けて取り組んでいきたい」と話している。

今後の展望

 今後の展望については、「現在体験できるIoTデバイスは11種類であるが、多くの企業から問い合わせがあり、今後体験できるデバイスは増えていくだろう。また、福岡以外にも2店舗目、3店舗目の展 開を考えている」とのことで、近々新たな発表があるかもしれない。ただし、新規進出地は、東京や大阪など外国人観光客が多く集まるところを中心に考えているそうなので、愛媛に進出する日は、もう少し先の話になりそうだ。
 また、「宿泊業以外の業態からも、& AND HOSTELで採用されている技術を活用したいとの声もある。まずは、& AND HOSTELでプラットフォームに磨きをかけ、将来的には介護など他業種でも& AND HOSTELの技術を活用することも考えている」とのことだ。

おわりに

 今回の取材を通して、IoTの大きな波は、すぐそこまで迫ってきていることを実感した。日常の些細な行動ではあるが、スマートフォンの操作1回で済ませられたり、自分の好みやその日の気分などに合わせて、空間をアレンジできたりするということは、私たちの日常を少しだけ便利にし、そして、少しだけ幸せな気持ちにしてくれる。
 近い将来には、一般家庭でもIoTが当たり前になるかもしれない。& AND HOSTELでそんな未来の日常を、少し先取り体験してみてはいかがだろうか。

(中川 智裕)

調査月報「IRC Monthly」
2016年10月号 掲載

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