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西日本レポート

【兵庫県豊岡市】日本一の鞄生産量を誇るまち豊岡 ~モノづくりからコトづくりへ、鞄産地ならではの地方創生~

2016.04.01 西日本レポート

日本一の鞄生産量を誇るまち豊岡 ~モノづくりからコトづくりへ、鞄産地ならではの地方創生~

昨今、全国各地で、地域産品等の差別化を図り、 地域ブランドづくりによってまちを活性化する取り組みが行われている。
愛媛県では「今治タオル」プロジェクトが有名であるが、工業製品として国内初の地域団体商標が登録されたのは、兵庫県※1工業組合の「豊岡」ブランドである。
日本一の産地である豊岡市において、地域ブランド化によっていかにしてものづくり産業が復活したのか、それを契機として動き出したを核とした地域活性化の取り組みを紹介する。
※本稿では、商標登録上の「豊岡」に合わせて、「」の字を使用

豊岡市の概要

豊岡市は、日本海に面し、兵庫県の北部に位置する。
2005年に1市5町(豊岡市、城崎町、竹野町、日高町、出石町、但東町)が合併してできた人口約8万5千人(2010年国勢調査)のまちである。
ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで二つ星評価を得ている名湯「城崎温泉」をはじめ、但馬の小京都・出石城下町、神鍋高原スキー場などの豊富な観光地を有し、2014年度の観光入込客数は447万人に上る※2
※2 豊岡市資料。ちなみに、松山市の2014年観光客推定数は約570万人

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日本一の鞄生産地 豊岡

豊岡市は、奈良時代を起源とする千有余年の歴史 を有する日本最大のの生産地でもある。
豊岡盆地に多く自生していたコリヤナギを原料にした柳細工で作られたカゴを起源として、江戸時代には豊岡藩の独占取扱品として(やなぎ)(こう)()(柳で編んだ箱形の入れ物)の生産が盛んとなった。明治時代には、パリ万国博覧会で豊岡産柳製品が銀賞を受賞するなど、全国的な名声を築いた。

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1936年に開催されたベルリンオリンピックでは、日本選手団のとして豊岡のが採用され、ピーク時には全国の生産量の80%を占めるまでに発展した。

「豊岡鞄」ブランド プロジェクト

現在、市内には180社以上の関連の企業が存在し、従業者数、出荷額ともに東京や大阪をしのぐ豊岡市の産業だが、今治タオルと同様に、安価な輸入品の大量流入などにより、危機的な状況に陥った時期があった。また、製造の大半をOEM生産※3が占めていたため、日本一の生産量を誇りながら、豊岡の名が消費者に知られることは少なかった。
そこで、産地としての生き残りをかけて、兵庫県工業組合(以下「組合」という)を中心に製造業各社が立ち上がった。問屋依存からの脱却に向けて、各社の商品企画力を強化し、豊岡産の高い技術力や品質を直接、消費者にアピールすることを目的に、2000年頃から外部デザイナーとの提携による新商品開発に着手し、レディースバッグの企画や東京ビッグサイトでのフェ アの開催などに取り組んだ。しばらく手探りの状況が続くが、2003年に「豊岡グラフィティ事業」を、2004年に「豊岡トラディショナル事業」を行い、 地域ブランドを意識するようになった。2005年には、地域ブランド確立に向けた取り組みを本格化するために、組合に豊岡地域ブランド委員会を設置し、豊岡ブランド要綱や製品の品質基準の策定、業界や市民に向けた説明会などが実施された。
これらの取り組みが功を奏し、2006年には、工業製品で国内第一号の地域団体商標として、「豊岡」地域ブランドが認定され、現在に至っている。
※3  OEM生産 OEMはOriginal Equipment Manufacturingの略で、委託者のブランドで製品を生産すること

匠の厳しい目で選ばれる「豊岡鞄」

「豊岡」は、豊岡産のの中でも、[1]組合が定めるマニフェストに署名した企業によって生産され、[2]素材・縫製から仕上げ・主観評価まで全21項目に及ぶ製品検査基準をすべて満たした製品だけに認められる。
審査は、経験豊富な熟練の職人らで構成される「豊岡地域ブランド委員会」によって行われている。年によっては、応募の約半分が不合格になることもあったと言う。それほど、求められる品質基準は高い。また、製品の一点一点には、認定製品番号と製造企業が記された保証書が付されており、作り手が直接、「豊岡」の保証責任を負っている。また、ネット登録による保証も行われており、消費者にとっては、作り手が直接見え、かつ、長期的な安心が得られる仕組みとなっている。

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ブランド化当初は売上が伸び悩んだものの、品質 やデザインの良さが徐々に知れ渡るようになり、ここ数年で売上は飛躍的に伸びている。また、組合への参加企業も増え、さらに、異業種からOEM生産の問い合わせも増加しているようだ。

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商店街でも鞄の取り組み

「豊岡」ブランドプロジェクトと時を同じくして、市内の(よい)()商店街を「カバンストリート」として売り出す取り組みも進められた。
衰退する中心市街地の活性化を目的として始まった動きだが、元々、商店街にはに関連する店はなく、インパクト先行の一面もあったようだ。しかし、商店街振興組合を中心に、専用の自動販売機の設置などユニークな取り組みや、地元野菜や手作りを販売するイベント「カバストマルシェ」が継続的に開催されることによって、その活動は拡大していった。
現在では、後述する拠点施設の整備を通じて、空き店舗に関連のショップや工房が出店しつつあり、名実ともにのまち豊岡を代表するストリートとなっている。

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豊岡鞄のシンボル施設「Toyooka KABAN Artisan Avenue」

豊岡のブランド化によって認知度を高めた豊岡市だが、製造業中心の産業振興から産業観光、地域を活かしたの まちへと発展させるため、そのコンセプトを象徴する拠点の整備を行った。それが、カバンストリートの空き店舗を改修し、2014年にオープンした 「Toyooka KABAN Artisan Avenue(アルチザン・アベニュー)」である。Artisanはフランス語で職人の意味で、ストリートに対して職人の通り(Avenue)を作ること をコンセプトとしている。柳行李をモチーフとしたこの施設には、の産地ならではの特長が随所に散りばめられている。

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鞄産業の集積地ならではの空間構成

豊岡にはの製造業だけでなく、材料商や卸も集積する。これらすべてを扱う施設をコンセプトに、1階には豊岡産のみを扱うショップを、2階には、生地や糸、金具、工具など、数々の専用のパーツや各社のオリジナル商材を扱う「アルチザン・パーツ」を配置している。ここでは、手作りキットを使った作りの体験ワークショップも行われており、参加者が豊岡のをより身近に感じることができる場となっている。

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材料、講師等が豊富に揃う プロの職人育成学校「Toyooka KABAN Artisan School」

産業の継続的な発展には人材の育成が欠かせない。そこで、店舗としては活用しづらい3階に配置されたのが、「一年でラフスケッチから一人でカバンが作れる職人の育成」をコンセプトとしたの専門校「Artisan School(アルチザン・スクール)」だ。
1期最大10名までという少数精鋭によるクラスで、授業時間は年間1,380時間(通常の専門学校の約2倍)、受講料は126万円と受講生の負担は少なくない。ただ、製作用の素材は無料(市内企業から無償提供)、製造から販売まで現役の関係者20人以上が参加する講師陣、プロ仕様のミシンやCAD※4の完備など、日本一の産 地としてのメリットを最大限に活かした体制が敷かれている。受講者の募集はネット告知だけにも関わらず、全国から志願者が集まっている。現在、第4期生 (2017年度生)の募集が行われているが、年々応募者が増え、倍率も高まっているようだ。取材でうかがった際も、生徒の皆さんが真剣なまなざしで作りに取り組んでいる姿が、とても印象的であった。
卒業後の就職先は条件付けられていないが、第1期生はすべて市内メーカーに就職するなど、豊岡の未来を担う人材の育成に寄与している。

※4  Computer Aided Designの略。コンピューター上で設計、製図を行うソフトウェア、システムのこと。建築、機械、洋服などさまざまな用途で用いられている

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点から線、線から面へ 地域デザイン

アルチザン・アベニューの運営は、市、商工会議 所などが出資する第三セクター「豊岡まちづくり株式会社」が担っている。マネージャーである林健太さんいわく「ここは決してを売るための施設ではなく、多くの人を呼び込むマグネットとなって、産業や市街地を活気づけるための施設です」。
林さんは今、アルチザン・アベニューで得られた手応えをもとに、城崎温泉や出石など他の地域とを結び付ける取り組みを進めている。その一つが、温泉街の女将さんたちに、実際に製造現場やアルチザン・アベニューを訪れてもらい、そこで得た知識や感動を宿泊客に伝えてもらうというものだ。ブランド化から始まった産 業の取り組みが、拠点施設の整備などを通じて人材の育成(Iターンの促進)、空き店舗の解消・商店街の活性化へとつながり、さらに観光地との連携へと広 がっている。豊岡まちづくり(株)が触媒となって、地域をデザインし、さまざまな主体や施策、地域が結びつき、新たな反応が生まれている。

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おわりに

昨年から動き出した地方創生は、全国各地で総合 戦略が策定され、これから本格的な施策の実行段階を迎える。まちづくりの先進地として挙げられることの多い豊岡市でも、成果が出るのはこれからだ。産業の活性化による豊岡流の地方創生が日本再興の手立ての一つになり得るのか、今後の動向にも注目したい。

(山之内 崇)

調査月報「IRC Monthly」
2016年4月号 掲載

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