私たちは活力ある地域づくりをサポートします。

西日本レポート

【北陸新幹線】日本海をバックに地方創生へ向けて疾走! ~北陸新幹線・金沢延伸開業による地域へのインパクト~

2015.12.01 西日本レポート

日本海をバックに地方創生へ向けて疾走! ~北陸新幹線・金沢延伸開業による地域へのインパクト~

今回の西日本レポートは、少し足を延ばして、北陸新幹線を取り上げる。
今年3月14日、北陸新幹線が長野駅から金沢駅まで延伸開業した。開業から半年を経て、北陸ではお祭りムードが続いている一方、早くも、開業効果の持続に向けた取り組みが始まっている。北陸新幹線が地域にもたらした影響と今後の展望を探ろうと、秋の金沢を訪れた。

金沢延伸開業までの歩み

北陸新幹線は、東京と大阪を上信越・北陸経由で結ぶ整備新幹線※1) である。1973年に高崎-福井間が整備計画に昇格し、98年の長野オリンピックの開催に合わせ、97年に長野駅まで暫定開業、通称「長野新幹線」として 運行されていた。金沢延伸に際しては、3,000m級の北アルプス山脈を避けるためのルート選定、建設費の地元負担、並行在来線のJRからの経営分離と いった諸問題を乗り越え、整備計画への昇格から実に42年の歳月を要した。

※1 全国新幹線鉄道整備法に基づき、整備計画が定められている北海道、東北(盛岡-青森)、北陸、九州(2ルート)の5つの新幹線。

首都圏との時間短縮で鉄道利用者が増加

首都圏と北陸を公共交通機関で移動する場合、これまで[1]航空機、[2]新幹線と在来線 の乗り継ぎ(越後湯沢経由、米原経由)、[3]高速バスが一般的だった。北陸新幹線を利用すれば、金沢や富山と東京との間は最短2時間台で結ばれるように なり、航空機に対する鉄道の優位性が高まった。3月の開業から半年間の鉄道利用者数(上越妙高-糸魚川間)は482.2万人(9月は13日までの利用者数 が32.1万人)で、前年同期比303%増(在来線特急の直江津-糸魚川間と比較)と大幅な伸びとなっている。

金沢延伸開業の経済波及効果

北陸新幹線の金沢延伸開業の経済波及効果については、多くの試算がなされている。石川県と 富山県の2県に及ぼす1年間の経済波及効果を、日本政策投資銀行は212億円、北陸経済研究所は300億円と試算している。ともに、新幹線を利用した観光 客やビジネス客の増加による消費拡大を前提としており、PR効果や企業進出などは考慮されていない。そのため、「数字以上の経済効果がある」との見方が多 い。

北陸3県への企業の機能移転

新幹線開業を契機とする北陸への企業進出の事例は多い。YKK(株)とYKKAP(株) は、東京の本社管理部門などの一部を創業の地である富山県黒部市に移転し、約230人が異動した。また、医療機器・航空機部品メーカーの日機装㈱は、昨年 6月に石川県白山市に新工場(金沢製作所)を建設し、今年3月までに静岡県にあった生産機能の大半を金沢製作所に移転した。これ以外にも、新幹線の開業 や、産業集積、災害リスクの低さ、豊富な人材などをメリットと捉え、企業が拠点の移転・進出先として北陸を選択するケースが増えている。
また、消費拡大効果を狙った、大型ショッピングセンターやアウトレットモールの開業、域外資本の企業が北陸に置く支店・支社の機能を高める動きも出ている。

開業後の観光客は倍増

新幹線開業や各種のキャンペーン効果もあって、北陸への観光客数は、大幅に増加している。 特に、兼六園や金沢城公園といった金沢市内の主要観光施設の入込客数は、新幹線開業後1ヵ月間で、前年の2~3倍に増加した。県内の旅館・ホテルの宿泊者 数も前年比2割増で推移し、金沢市内を中心に、宿泊施設の新設やリニューアルも相次いでいる。
また、JRグループは、10月から大型観光PR事 業「北陸デスティネーションキャンペーン」を実施している。地元のJR西日本が石川・富山の在来線で新たな観光列車を運行したり、期間限定の乗り放題切符 を発売したりするなど、新幹線の開業効果を北陸全体へ波及させる取り組みがみられる。

北陸デスティネーションキャンペーンのぼり

北陸デスティネーションキャンペーンのぼり

インバウンドにも好影響

新幹線の開業は、インバウンド推進にも貢献している。小松、富山の両空港には新幹線開業前から中国や台湾、韓国などとの国際線定期便が就航しており、東アジアを中心に一定の外国人旅行者が北陸を訪れていた。これに加えて新幹線開業後は、ジャパン・レイル・パス※2)を使い、鉄道で周遊旅行をする欧米系の個人旅行者が増えているそうだ。
こうしたなか、中部運輸局や北陸信越運輸局、中部北陸9県の自治体、観光関係団体、事業者などが、新幹線を新たな観光ルートに組み入れ、中部北陸圏の知名度向上やインバウンドを推進する「昇龍道プロジェクト」を展開し、さらなる観光客増加を目指している。
また、金沢港振興協会は、新幹線、高速道路、航空の陸海空を連携させたクルーズ船誘致を推進している。今年は延べ19隻のクルーズ船が金沢港に寄港し、取材時にもフランス船社のクルーズ船が停泊していた。

※2 JRグループが提供する、外国から日本を観光目的で訪れる人のみが購入できる特別企画乗車券。
有効期間内はJR全線が乗り放題。

開業前から駅周辺を整備

話を金沢駅に戻すと、前述のとおり、整備計画昇格から開業までには42年かかった。「新幹 線は42年間待ち続けた恋人」(金沢商工会議所)とたとえることもあるそうだが、地元はこの“恋人”を迎えるため、先行して駅周辺の整備・再開発を進めて きた。富山-金沢間の新幹線本体の着工は2005年だが、それ以前の90年に金沢駅高架化完了(在来線)、92年の新幹線金沢駅の着工、駅周辺の東西の広 場整備など、着々と準備を整え、今年3月14日の開業を迎えた。

石川県庁より金沢駅方向を望む

石川県庁より金沢駅方向を望む

「世界で最も美しい駅14駅」に選出

金沢駅兼六園口(東口)のコンコースを出ると、頭上に広がるガラスのドーム「もてなしドー ム」が旅行者を出迎える。雨や雪の多い金沢で、『駅を降りた人に傘を差し出す、もてなしの心』を表現したドームで、使用したガラスは3,019枚にも及 び、金沢の玄関口にふさわしい、明るく、機能的な空間を作り出している。

金沢駅兼六園口の「もてなしドーム」

金沢駅兼六園口の「もてなしドーム」

「もてなしドーム」を出ると、鼓型をした木製の門「鼓門(つづみもん)」がある。金沢の伝統芸能である加賀宝生(ほうしょう)の鼓をイメージした2脚の柱に、緩やかな曲面屋根をかけたもので、伝統と革新が共存する金沢を象徴する堂々たる姿である。取材時も「鼓門」をバックに記念写真を撮る人が絶えなかった。
この2つのシンボルも、北陸新幹線の延伸を見越した駅周辺整備事業として、2005年3月に完成したものだ。当初は「古い金沢の街には不釣り合い」という声もあったそうだが、今ではすっかり馴染んでいる。
このように、金沢駅には、駅自体に見どころが多く、米国の雑誌「トラベル・レジャー」ウェブ版の「世界で最も美しい駅14駅」に日本で唯一選出された実績もある(2011年12月)。
なお、兼六園口には、バスターミナルや私鉄の駅があり、近年は大型商業施設やホテル、中・大規模マンションなどの建設も相次ぎ、片町や香林坊、武蔵ヶ辻と並ぶ新たな市街地を形成している。

開業効果の最大化と持続化

出足好調の開業だが、産業界や行政などは「開業効果の最大化・持続化を目指す」次の一歩を踏み出している。
金沢商工会議所は、関係団体と連携して、開業前には沿線都市での誘客キャンペーンを実施し、開業日と翌日には駅構内や商店街で「おもてなし大茶会」を開催 した。継続的な取り組みとしては、金沢を訪れる多様な観光客のニーズに対し、皆で“もてなし”の心を持って接しようとする“ざわもて運動”を推進している ほか、街中の環境整備や、夜の魅力の強化も進めている。また、ストロー効果による市内の支店・営業所などの統廃合の状況を把握するため、県外資本企業の出 先に対して新幹線開業による影響を調査し、負の効果を最小限に抑えるための検討もなされている。
新幹線開業で大きな打撃を受けているのは航空業 界で、小松、富山の両空港では羽田便の利用客数が4割ほど減少している。今回の訪問は、往復で航空機と新幹線を使い分けたが、航空機の搭乗率は3割強、新 幹線はほぼ満席だった。こうした状況から、県は航空機利用者に対して、空港の無料駐車券やホテル、レンタカーの割引クーポンを配布したり、職員が出張する 際に航空機利用を促したりしている。航空会社も割引制度の拡充や羽田での乗り継ぎの利便性をPRし、利用者確保に努めている。

北陸新幹線の今後

今後、北陸新幹線は西へ延伸し、金沢-敦賀(福井)間は2023年春頃の開業予定で、既に 工事が進んでいる金沢-福井間を暫定開業させる可能性もあるそうだ。さらに敦賀以西、大阪へ向けてのルートも検討されており、地元では、歴史的に北陸とつ ながりの強い関西圏へのルート確定と整備に関心が高まりそうだ。

おわりに

北陸・金沢は、新幹線の開業による盛り上がりを見せ、地方創生の追い風にもなりそうだ。来 年3月には、北海道新幹線の新青森-新函館北斗間が開業予定で、北海道-本州-九州が新幹線で結ばれる。残念ながら、四国の新幹線は基本計画段階にとどま り、整備の目途は立っていないが、今回金沢で北陸をはじめ、九州や北海道などの事例をヒアリングしたことで、四国新幹線実現に向けて、まずは地域一丸で気 運を高めていく必要があると感じた。

1512_06

 (新藤 博之)

調査月報「IRC Monthly」
2015年12月号 掲載

 

ページTOPへ
Copyright©IYOGIN REGIONAL ECONOMY RESEARCH CENTER,INC.ALL Right Reserved.