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西日本レポート

【香川県三豊市】届かぬ想いを受け付けます ~漂流郵便局 MISSING POST OFFICE(香川県三豊市)~

2015.02.01 西日本レポート

届かぬ想いを受け付けます ~漂流郵便局 MISSING POST OFFICE(香川県三豊市)~

出したくても出せない手紙、受け取ってくれる相手がいない手紙、こうした届かぬ想いが込められた手紙を受け付けてくれる場所がある。
「漂流郵便局」、香川県三豊市の離島・粟島にある、かつて郵便局だったこの場所に、全国からたくさんの手紙が届き、またそれを読む人が数多く訪れている。

「漂流郵便局」とは

「漂流郵便局」は、一昨年に開催された「瀬戸内国際芸術祭2013」の作品の1つで、現代アート作家の久保田沙耶さんが手がけたアートプロジェクトだ。
漂流郵便局の局舎の外にある立て看板にはこう書かれている。

「漂流郵便局」とは

漂流郵便局は、その不思議なコンセプトが話題となり、1ヵ月の会期中に多数の人が訪れた。
芸術祭終了後も開局を望む声が多く寄せられたことから、引き続き届け先のわからない手紙を受け入れ、手紙を読みたい人や手紙を直接受け付けてもらいたい人のために毎月2回、定期的に開局している。

偶然から生まれたコンセプト

漂流郵便局のコンセプトはいかにして生まれたのか、作者の久保田さんに話を伺った。
芸術祭の作品展示場所を下見するため、粟島を訪れた久保田さん。その際、一人で島内を散策していたとき、偶然通りかかった旧粟島郵便局のたたずまいに魅か れたと言う。1964年に建てられ、91年まで現役の郵便局だったこの旧局舎は、作品展示場所の候補に挙がっていた。しかし、久保田さんは当時そのことを 知らなかったそうだ。
倉庫として使われていた旧局舎の中に入り、かつての郵便局の設備を眺めるうちに、「いろいろな人やモノやコトが、この場所に行き着いたのだ」との思いが生まれた。そして、窓ガラスに映った自分の姿を見て「流れ着いてしまった」と感じたそうだ。
粟島には、潮の流れに乗って多くの漂流物が流れ着く。そうしたことが結び付いて、「人は大きな流れの中の一部でしかない」という考えが頭の中でまとまり、「他の人にも自分と同じ感覚を体感してもらえる場所になるのではないか」と直感した。
局舎を出て、思いを巡らせるうちに、「漂流郵便局」という言葉が頭に浮かんだと言う。こうした偶然から漂流郵便局のコンセプトが生まれ、練り上げられて1つの作品となった。

届けられた数々の想い

漂流郵便局に届いた手紙は、芸術祭期間中は400通ほどだったが、その後1年余りで3,000通を超えた。
それらの手紙は、「漂流私書箱」と呼ばれる、2本のピアノ線に磁石で固定されたブリキ缶の中で漂うように保管される。
訪れた人は、ブリキ缶から自由に手紙を取り出し、読むことができる。読んだ手紙は再びブリキ缶に戻されるが、同じ場所に戻されるとは限らないため、届け先のわからない手紙が次々に漂流していく。

ここで、さまざまな想いが込められた手紙の1部を紹介する。

届け先のわからない手紙が入った「漂流私書箱」

届け先のわからない手紙が入った「漂流私書箱」

こうした手紙が毎日のように届き、開局日には、東京や大阪など遠方からも人が訪れ、長時間手紙を読んだり、局内で手紙を書いたりしている。
漂流私書箱には、まだ見ぬ「未来の旦那さま」への手紙、亡くなったペットへの手紙、ホコリまみれになった階段に対する懺悔の手紙、お酒を飲んで酔った自分 への反省の手紙、別れた恋人への手紙、サンタクロースへの手紙、など、さまざまな宛先、内容の手紙があり、人々のありとあらゆる想いが詰まっている。

届かぬ想いを受け付けます

漂流郵便局には、手紙に込められた想いを大切に受け付けてくれる人がいる。漂流郵便局の局長を務める中田勝久さんである。
旧局舎の所有者である中田さんは、旧粟島郵便局に45年間勤務し、うち17年間は局長として務めた。こうした縁で、漂流郵便局の局長を依頼され、十数年ぶりに現場に返り咲いた。
作者であり、漂流郵便局の局員でもある久保田さんは東京在住であるため、中田さんが漂流郵便局を管理している。中田さんは、局長として、日々、届け先のわ からない手紙を受け付け、開局日には、凛々しい制服姿で、訪れる人をあたたかく迎えている。そのやさしさ、あたたかい応対に感激する人も多く、中田局長宛 てのファンレターが全国から届いている。
中田さんは、「伝えたくても伝えられない想いを手紙にすることで、気持ちが楽になってもらえればうれしい。私が元気な間は、漂流郵便局の局長を続けていきたい」と、穏やかな笑顔で、漂流郵便局への熱い想いを語ってくれた。

作者の久保田さん(左)と中田さん

作者の久保田さん(左)と中田さん

実は、中田さん自身も、届け先がわからない手紙を出したそうだ。粟島郵便局の初代局長で、日本初の海員養成学校の設立など、島の発展に尽力した故中野寅三郎氏に宛てた手紙だ。運が良ければ、漂流私書箱に漂う手紙の中から、初代局長宛ての手紙を見つけられるかもしれない。

魅力満載の粟島

漂流郵便局がある粟島には、ほかにも、ここを訪れないと体験できない魅力がたくさんある。
島のシンボル的存在で、日本最古の海員養成学校があった「粟島海洋記念公園」、片道30分の登山で、山頂からの360度パノラマの絶景が気軽に楽しめる「城山(じょうのやま)」、個人の庭に、漁具のブイでできた愛くるしい表情のブイ人形が並ぶ「ぶいぶいがーでん」、幻想的な光を放つ「海ほたる」(貝ミジンコの仲間)、など、島の歴史、自然とアートが上手く共存した、この島ならではの魅力が満載だ。

人生が垣間見える場所

漂流郵便局は、人の人生の一端が垣間見える場所として話題となり、たびたびマスコミに取り上げられている。こうして手紙を出す人、読む人がますます増え、届かぬ想いに共感する人の輪が広がっている。また、近々書籍も出版される。
あなたにも、伝えたくても伝えられない想い、ありませんか。漂流郵便局は、そんなあなたの想いを受け付けてくれる、唯一の場所かもしれません。

(石川 良二)

漂流郵便局情報

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