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西日本レポート

【島根県鹿足郡津和野町】ヨソモノのワカモノが町の魅力を引き出す ~島根県鹿足郡津和野町の町づくり「ファウンディングベース」~

2014.10.01 西日本レポート

ヨソモノのワカモノが町の魅力を引き出す ~島根県鹿足郡津和野町の町づくり「ファウンディングベース」~

地域振興に必要なモノとして「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」があると聞く。「ヨソモノ」は、外部の視点で物事を捉え、「ワカモノ」は旧来のしがらみや固定観念に捕らわれず、「バカモノ」は考えるよりまず行動する。
今、そんな3つの要素を合わせ持った都会の大学生や社会人が、町民と一緒に町づくりに取り組んでいる場所がある。
今回は、ヨソモノのワカモノが地方の課題解決を目指す、島根県鹿足郡津和野町の町づくり事業「ファウンディングベース」についてご紹介する。

島根県鹿足郡津和野町

島根県西部に位置する津和野町は、人口8,195人(2013年時点)の小さな町である。
過疎化が進む島根県のなかでも、津和野町は特に厳しい状況に置かれている。15歳未満の年齢が極端に少ないだけでなく、近くに大学がないため高校を卒業すると町外に出て行く者も多い。過疎高齢化の進行により、あと6年もすれば高齢化率が50%を超えると予想されている。
そんな津和野町では、「人と自然に育まれ、ぬくもりのある交流の町づくり」実現のため、「住民参加の協働の町づくり」を進めており、その施策の1つが、ファウンディングベース事業である。

ファウンディングベース事業のはじまり

ファウンディングベース事業は、都会の大学生・大学院生等が地方自治体の「首長付」非常勤 職員に就任し、町民と協力して町づくりに取り組むという事業である。彼らは最低1年間学校を休学し、実際に津和野町で生活しながら、地域の課題解決にあた る。活動費用は、総務省「地域おこし協力隊」制度の特別交付税を利用している。
学生などの募集イベントや、プロジェクトへの専門家の紹介など、本事業をサポートしているのは、東京にある株式会社FoundingBase(ファウンディングベース)である。
同社の林 賢司代表は、学生時代から1万人以下のコミュニティを対象とした町づくりに取り組んできた。その中で、地域が衰退する本質的な原因を、「人がいなくなって町の経済力が失われること」と捉え、都市部から地方へ人が流動するような仕組みを模索していた。
一方、リクルートなどで企業への人材紹介を行っていた同社のもう1人の代表 佐々木喬志氏は、企業側が求める人間と学生とのミスマッチを感じていた。今の学生には、企業が求めるような問題解決能力を養う機会が不足している。
お互いの悩みについて話す中で、「地方には問題が山積している。そこに飛び込んでいくことが、若者の成長につながるのではないか」というアイデアが浮かん だ。「都会の学生が地方の問題解決に取り組む」というやり方は、学生たちが成長する機会になるだけでなく、地方に人を呼ぶきっかけにもなる。お互いの課題 解決につながる糸口がみつかり、その日のうちに事業の大枠がまとまったと言う。
受け入れ先については、林代表が仕事で関係を持っていた津和野町長に相談した。新たな発想や行動を積極的に取り入れたいと考えていた町長は、2012年4月から事業を導入することにした。
大学を休学するというリスクを負ってまで学生が来てくれるかという不安はあったが、町長を交えた懇親会を開催したり、代表自ら学生を訪ね、熱心に事業説明を行ったりした甲斐があり、最終的に、国際基督教大学、慶應義塾大学、東京工業大学から4人の学生の参加が決まった。

学生が思う活性化とは

事業を始めるにあたり、町議会議員に対しての意見交換会が開催された。議員からは厳しい意 見が出された。「最初に言っておきますが私はこの事業に反対です。今までプロのコンサルに高いお金を払ってやってきたことを、学生の皆さんでなにができる と言うのですか」。場が凍りつくなか、学生の1人が口を開いた。「活性化に必要なのは、活気のある人がいることです。町を歩いてみましたが、平日とは言え 観光地でほとんど人に出会いませんでした。町が死んでます。この状態では活性化もくそもありません。たとえ通りに誰もいなくても、商店のおじさんが『い らっしゃい、いらっしゃい』って声を出していたら、それだけでも活性化につながるんじゃないでしょうか。地域の活性化にとっては、声を出す気持ちや雰囲気 を作ることが大事なんです。僕はそれをやりたいと思っています。では、お尋ねしますが、あなたはどういうことが活性化だと思いますか」。議員はこの問いに 答えられなかったそうだ。

ファウンディングベースが取り組む分野

2012年から始まり今年で3年目を迎えるこの事業。現在、津和野町では6人の首長付と3人の社会人メンバーが活動している。
今年の4月から活動している島袋太輔さんは、慶應義塾大学を休学して津和野町にやってきた。津和野町に来たことはなく、不安もあったと言う。しかし、もと もと町づくりに興味があったことに加え、先に参加していた大学の先輩が、大学院の博士課程という「超スーパーキャリア」を中断してまで行く場所だったら、 絶対に何か得るものがあると思い、参加を決意したそうだ。

林代表(左)と首長付の島袋さん

林代表(左)と首長付の島袋さん

首長付が課題解決に取り組むのは、津和野町の主たる産業である「観光」と「農業」、そして次世代の人材を育てる「教育」の分野である。首長付は、役場の商工観光課、農林課、つわの暮らし推進課に在籍して、それぞれの視点で課題を見つけ解決に努めている。

「人」がメインの観光

地元目線の町歩きガイド「つわのさんぽ路」

山陰の小京都と呼ばれ、年間100万人の観光客が訪れる津和野町。観光のメインとして、白壁の景観や鯉が泳ぐ割堀など町並みを挙げる人は多い。しかし、観光地ではなく生活の場として、日々町の様子 を見ている町民には、彼らしか知らない町の魅力がある。
そこで、水、四季、静けさなど町民が思う津和野町の好きなところを旅のテーマとして、町 で実際に暮らす町民ならではの視点を随所に取り入れたマップが作られた。観光名所を回って終わるだけでなく、もっと町や町の人について知ってもらいたい、 そして何度も足を運んでもらいたい、そんな思いが 込められたマップは、現在9種類作成されている。

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「ROLE PLAYING TSUWANO」

津和野町の観光の問題としてよく言われるのが、「若者向けの町じゃない」ということであ る。観光で訪れるのは50代60代の方々。言葉は悪いが、彼らが津和野に来るのは、これが最後になるだろう。一方、今の若者は、津和野のことを知らない。 将来の潜在顧客である若者の認知度を上げることは、町の観光にとって重要な課題となっている。そこで、若者向けの企画として「ROLE PLAYING TSUWANO(ロールプレイング津和野)」という観光プログラムが作られた。

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このプログラムでは、ロールプレイングゲームのように、ミッションをクリアしたり、町民と 交流したりしながら津和野町を観光できるようになっている。ゲームのテーマである「水を追いかけろ」は、昨年、津和野町を襲った大規模な水害を受けて考え られたものだ。水害が発生した当時の状況や、今の暮らしなどについて町の人から直接話を聞くことで、津和野町やそこで暮らす人々をより身近に感じることが でき、参加者からも好評を得ている。

地道な努力が実を結びつつある「農業」

1泊2日6ヵ月の農泊体験

農業の担い手不足は日本全体が抱えている問題である。津和野町も「担い手支援センター」を設立し たが、設立後の5年間でIターンでの新規就農者は1人もいなかった。
「とりあえず1年間来てみてください」と言われても、知らない土地に1年間 滞在するのは、そう簡単なことではない。ならば期間を分割してみてはどうか、ということで企画されたのが、1泊2日6ヵ月連続開催の農業体験プログラム だった。1泊2日とは言え、毎月滞在すれば、季節ごとの作業や年間を通した農業の流れを体験することができる。アウトドアショップなどにチラシを置いても らいながら宣伝活動に努めた結果、2012年9月から翌年3月までの半年間、兵庫県や福岡などから8名の参加があった。その内1組の参加者が、津和野での 就農に向けて、現在、移住の準備を進めている。

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農家の所得向上を目指す「まるごと津和野マルシェ」

津和野町では月に2回、「まるごと津和野マルシェ」が開催される。地元の新鮮な野菜やくだものを買えるとあって、観光客だけでなく地元住民にも人気がある。
農家の所得向上を目指して考えられたこの企画。担当者が初めて農家を訪ねたとき、「農家の『の』の字も知らんような奴が何偉そうなこと言ってんだ」と門前払いされたそうだ。しかし、辛抱強く通い続け2013年10月、1回目のマルシェが開催された。
10月から3月までの売上げは250万円。今年は1,000万円を目標に取り組んでいる。ファウンディングベースで企画した本プロジェクトは、現在、有限会社フロンティア日原に委譲され、持続的な事業として回り始めている。

人を育てるための「教育」

津和野高校魅力化プロジェクト

2011年4月、島根県立津和野高等学校の入学者数は、定員80人に対し57人だった。こ のまま生徒数の減少が続くようでは、津和野高校は統廃合も検討されてしまう。本来ならば、県立高校は島根県が面倒を見るべきところだが、津和野のことを教 え、次代の津和野の人材育成を担う町内唯一の高校は、やはり残さなくてはいけないと考え、津和野高校の魅力化プロジェクトが始まった。

町営英語塾「HAN-KOH(はんこう)」

魅力化プロジェクトの1つとして、2014年に町営英語塾「HAN-KOH(はんこう)」が開設された。塾は学校の敷地内にある同窓会館で開かれ、現在、全校生徒の半数にあたる約90人が通っている。
当初は、衛星などを介した通信教育なども検討されたが、「人を育てるのは人である」という教育方針のもと、対面で話ができることを重視し、講師を東京から呼び寄せた。東京レベルの授業を受けられるとあって、視察に訪れた自治体から羨ましがられることも多いそうだ。
津和野町には高校生用の民営塾はなく、HAN-KOHができるまで、高校生には「塾に行く」という習慣がなかった。そんな彼らにとって、放課後、友達と一 緒に課題をやったり、授業を受けたりできるHAN-KOHは、新鮮で楽しい魅力的な場所としてとらえられているようだ。

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魅力化プロジェクトの取り組みにより、2014年度の新入生は前年より23%増え68人になった。評判を聞きつけ、津和野町外からの入学希望者も増えている。来年度は、定員を超える入学希望があることが期待されている。

おわりに

ファウンディングベース事業では、3年間で22のプロジェクトを実行してきた。独自の視点 で様々な企画を提案する彼らは、役場内でも頼もしい存在となっている。すべてのプロジェクトが継続しているわけではないが、彼らの活動は、町民にとって、 自分たちの町の良さに気づくきっかけとなっているようだ。
最初こそ、「ヨソモノのワカモノに本当にできるのか?」と疑っていた町民も、実際に彼 らと一緒に活動し、頑張っている姿を目の当たりにすると、積極的に動くようになったと言う。毎年行われている活動報告会への参加者は年々増えており、これ までに400人以上が参加している。町づくりに興味を持つ町民が増えているあらわれだろう。
首長付は、早ければ1年で津和野町から都会へ戻って いく。しかし、この地でできた「つながり」を途切れさせることはない。彼らは、戻った場所で津和野の話をする。大学に戻った翌年、ゼミの合宿を津和野で開 催した生徒もいた。自分の場所で活動を続けてくれることは、町にとって大きな励みとなっている。
小さな町では少しの動きが大きな変化をもたらすこともある。地域が衰退するか、踏みとどまるかは、声を出すワカモノがいるかいないかで決まるのかもしれない。

(川野 志子)

 

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