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西日本レポート

【鹿児島県いちき串木野市】環境維新の実現に向けて挑戦!!全国初の官民協業による"まちづくりメガソーラー" ~鹿児島県いちき串木野市・さつま自然エネルギーの取り組み~

2013.12.01 西日本レポート

環境維新の実現に向けて挑戦!!全国初の官民協業による"まちづくりメガソーラー" ~鹿児島県いちき串木野市・さつま自然エネルギーの取り組み~

鹿児島県北西部にある人口3万人のまち、いちき串木野市。温暖な気候と自然の恵み豊かなまちが、新エネルギーを活用した地域活性化への取り組みで注目を集めている。
今回は、"食" と"エネルギー" の融合による地域活性化に挑戦している同市での取り組みを紹介する。

“食のまち”いちき串木野市

市のロゴマーク

市のロゴマーク

海に面したいちき串木野市は、古くから水産業が盛んで、全国的にも有名な"さつま揚げ"の発祥の地である。豊臣秀吉の時代から漁港として栄え、特に遠洋漁業が盛んで、現在でも遠洋マグロ漁の稼働船籍数は日本一である。国内屈指の産金量を誇った串木野金山とあわせ、かつては「金とマグロのまち」と呼ばれていた。
そのほか、藩政時代から続く焼酎造りや、豊かな自然に育まれたポンカンやサワーポメロ等のかんきつ類などの地域資源を活かし、農水産業、食品製造業を中心とした"食のまち" として発展してきた。

地域の豊かな食材を活かし、「まぐろラーメン」をはじめ、「ポンカレー(ポンカン+カレー)」、「三大カツ(赤鶏+まぐろ+黒豚)」、「まぐろ舵取り丼」など実にさまざまなご当地グルメが開発されている。
このような豊かな食文化を通して市民・行政・事業者が一体となって"食のまち" づくりに取り組むため、同市では平成21年に「食のまちづくり条例」を制定した。また、食による交流人口の増加・経済振興に向けてさまざまな取り組みを戦略的に推進していくために「食のまち推進課」という部署も設けている。さらに平成25年6月には、全国初となる「焼酎で乾杯条例」を制定するなど、地域が一体となってまちを盛り上げている。

左上:マグロの水揚げ風景 左下:さつま揚げ 右上:まぐろラーメン 右下:地元焼酎

左上:マグロの水揚げ風景
左下:さつま揚げ
右上:まぐろラーメン
右下:地元焼酎

官民協業によるプロジェクト始動

"食のまち"として地域活性化に取り組む一方で、人口減少・少子高齢化、地場産業の衰退による経済基盤の弱体化が大きな問題として顕在化していた。焼酎やさつま揚げなどを製造する地元企業にとっても、地域の衰退は事業に直結するものであり、企業は「このまま何もしなければ衰退の一途である」という強い危機感を募らせていた。その状況を打破すべく、「泣こかいぼかい、泣くよかひっべ(やるかやめるか考える暇があったら実行せよという意味の鹿児島弁)」という進取の気質で立ち上がったのが、"食のまち" を支える地場食品製造業が集積する西薩中核工業団地の企業経営者たちである。
彼等は、「先進的な環境・エネルギー施策の実現により、環境負荷の小さいまちを構築すれば、雇用創出、企業の競争力強化などに繋がる。そうすれば、『人口減少・少子高齢化』、『経済基盤の弱体化』、『財政悪化』といった問題を解決し、地域再生が可能である」と同市に訴え、官民協業による地域活性化に向けた新たな取り組みが動き出した。

地域あげてのメガソーラー事業

その新たな取り組みとは、全国でも初めてのケースとなる、地域をあげてのメガソーラー事業(1,000kW以上の太陽光発電事業)である。
平成24年7月に施行された再生可能エネルギーの全量買取制度もあり、今や全国各地でメガソーラー事業が盛んに行われているが、同市での取り組みには大きな特徴がある。それは、地域全体を大きな1つの発電地帯と見なし、地元の企業、金融機関、自治体そして市民までも巻き込んだ、地域活性化を目的とする事業であるという点である。
太陽の恵みも地域資源の1つとして捉え、「地域の資源を活用して生まれた資金は地域内で循環させる」という考えのもと、工業団地内外の建物屋根や空き地に太陽光発電設備を設置し、売電による収益を地域に還元していこうとするものである。
その事業を担うため、平成24年4月、工業団地内の企業も参加して官民出資による「合同会社さつま自然エネルギー(有限責任合同会社)」が設立された。
その代表社員であり事務局を務める株式会社パスポート(神奈川県川崎市)は、酒類・食料品の販売を中心に、太陽光発電設備の施工等も手掛けている会社である。社長の濵田総一郎氏はいちき串木野市出身で、何らかの形で地元に貢献したいという強い思いがあったと言う。

参加者の理解の元、幸先よくスタート

平成24年7月1日、100kWの設備で売電をスタートし、現在では工業団地内の工場屋根や敷地に約2,000kW、団地以外に約1,000kW、地域全体で約3,000kWの太陽光発電設備が稼働している。
総事業費約10億円は、いちき串木野市や株式会社パスポートのほか、発電設備設置先である企業・団体が発電容量に応じて(1kWあたり2万円)拠出した出資金、金融機関からの借入に加え、市民にも広くエネルギーへの関心を高めてもらおうと、九州初となる市民ファンドを創設し、調達した。
このメガソーラー事業の特筆すべきことは、太陽光発電設備の設置先企業は、出資金以外の初期負担がゼロである上、事業期間中は賃貸料が受け取れ、さらに将来は太陽光発電設備を無償で譲り受けることができるという点である。事業期間(予定:12年間)終了と同時にさつま自然エネルギーは減資する予定であり、その時点で出資金が返還され、その後の売電収入は設置先企業の収入となる。設置先企業は、リスクがほとんどないにもかかわらず、大きなリターンを得ることができる。なお、減資後のさつま自然エネルギーは、太陽光発電設備のメンテナンスや環境教育、PPS(特定規模電気事業者)事業等を予定している。
また、市民ファンドの仕組みにも全国初の試みがある。それは毎年の配当金の代わりに地元特産品を選ぶことができる点で、地元特産品の良さをアピールしていこうとするものである。
こうした共同事業を行う場合、ハードルとなるのが参加者間の連携であるが、工業団地の企業間にはもともと交流があり、意思疎通は非常にスムーズであったと言う。
一方で、事業の妥当性や確実性など初めての試みであるが故の不安もいくつかあった。それらを乗り越えられた主な要因は、①参加者のリスクを最小限に抑えつつ、事業の採算性を確保していること、②地域貢献に資する事業であったこと、③参加者の役割と責任を明確にしたこと、④参加者が当事者意識をもって取り組んだこと、である。また、いちき串木野市からの全面的な支援があったことも大きな力となった。

売電開始式典

売電開始式典

次世代エネルギーパークに認定

同市では従来から風力発電やバイオマスエネルギーへの取り組みも進められていたが、今回のメガソーラー事業が加わったことで、新エネルギーを活用した取り組みが評価され、平成24年10月には九州で8つ目、鹿児島県では初めて「次世代エネルギーパーク」に認定された。
次世代エネルギーパークは、あらゆる年齢層が新エネルギーを中心にエネルギー問題への理解を深めることを通じて、エネルギー政策の促進に寄与することを目的としており、現在、全国で56ヵ所が認定されている。ここでは、エネルギー関連の最先端のテクノロジーを、"楽しく""遊びながら""学ぶ"ことができるのが大きな特徴である。
同市では、本事業における太陽光発電設備を、新たな観光資源の1つとしても活用している。

地域への波及効果

"まちづくりメガソーラー" がスタートし、地域は徐々に、しかし着実に変わろうとしている。
例えば、地場食品製造業においては、環境付加価値の向上による製品PR、将来的なランニングコスト低下などから、競争力向上が見込まれている。また、太陽光発電設備の施工等に豊富な実績のある株式会社パスポートと地元施工業者が協力して太陽光発電設備を施工したことで、地元業者にその技術やノウハウが蓄積され、受注量増加に繋がったり、太陽光パネル用架台などを独自に製作したりする事例も出てきた。
市民においても、市民ファンドやシンポジウム、メディア等を通じて、本事業のことが広く認知されており、"まちが変わろうとしている" という期待感は着実に高まっていると言う。

太陽光パネルを設置した工業団地

太陽光パネルを設置した工業団地

今後の展開

今回の事業が順調に進んでいるなかで、次のメガソーラー計画も実現に向かって動き出しており、地域活性化を一層促進するため、売電収入の一部を地域活性化策に充てることも検討されている。
具体的には、売電収入の一部を活用し、"食のまち"と"新エネルギー"の融合を体験できるエコツアーを展開していく予定である。これによって交流人口の増加を図り、地域振興・雇用創出に繋げることで地域全体が元気で輝く社会の実現を目指している。

おわりに

本事業のような先進的な取り組みがいちき串木野市で可能となったのは、各関係者が立場を越えて「ふるさとを元気にしたい」という思いを共有できたことにある。その拠り所となったのが、愛媛にも縁の深い詩人、坂村真民氏の「あとからくる者のために」という詩であったと言う。まちの将来のために「今、自分たちができることをする!」という強く熱い思いが地域全体を動かしていった。
本事業は、全国どの地域でも同じようなスキームで取り組むことが可能であるため、事業開始直後から、多くの問い合わせや視察が相次いでいる。既に具体的に実行に移している自治体等も出てきており、同市の取り組みが各地に波及しつつあるようだ。
幕末に新たな時代を切り開き明治維新へと導いた薩摩から、今、環境維新を興そうとしている同市の今後に期待するとともに、"まちづくりソーラー"が全国の地方都市に波及していくことに期待がかかる。

(土岐 博史)

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