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愛媛の登録有形文化財

愛媛大学教育学部附属中学校講堂 章光堂(松山市)

2010.11.01 愛媛の登録有形文化財

「愛媛の登録有形文化財」の第5回は、「歴史 を語る建築」をテーマに、松山市の愛媛大学教育学部附属中学校講堂・章光堂(以下、章光堂)と新居浜市の武徳殿を訪ねた。

「章光堂」は、愛媛大学の前身である旧制松山高等学校の講堂として、大正11年(1922年)に建設された。文部省直轄学校の講堂として、当時の文部技官・鳥海他郎とりうみたろうが設計したという説もあるが、はっきりとした記録は残っていない。
 章光堂は、大正期の西洋建築らしいモダンな建造物であり、ヨーロッパの2つの時代の建築様式を見ることができる。全体の外観は、屋根に左右対称の塔が形作られたルネサンス様式であるが、正面入口には、古代ローマの建築に見られるトスカナ様式のどっしりとした円柱からなる大きな車寄せが設けられている。
 明治期、見様見真似で洋風に建てられた“擬洋風建築”から脱皮し、西洋建築を咀嚼・吸収した上で生み出された建物であり、日本における西洋建築も新たな段階に到達していたことがうかがえる。
 外壁は淡い緑色に塗られ、周りの木々の葉との調和が美しい。秋になれば銀杏の黄色や紅葉の赤とのコントラストも見事なのだそうだ。
 入口の扉を開けると、「章光堂」と毛筆で書かれた額が掲げられ、天井にはアールデコ風の幾何学的な模様の装飾がされている。左右には、2階のギャラリーへ上がる階段があり、その手すりにも控えめな幾何学模様が彫刻されている。

画像:「章光堂」の額と天井の意匠

「章光堂」の額と天井の意匠

内部は、正面に舞台、残る3方の壁面に沿って2階のギャラリーが設置された定型的な講堂の構造である。白い漆喰の天井には浮き彫り模様が施され、シンプルなデザインのシャンデリアが下がっている。
 ギャラリーの柱にもシャンデリアと揃いの丸いガラスの明かりが灯っている。創建当初からのもので、割ってしまうと代わりがないため、電球を替える作業にはとても気を使うのだと言う。
 建物自体の雰囲気と、決して派手さはないが、設計者の思いが細部にまで込められた内部の意匠が調和して、厳粛さのなかにも温かみのある空間が生み出されている。

画像:講堂内部

講堂内部

生徒達にとって、初めてこの建物に出会った時の驚きは大きい。学校生活を過ごすうちにそれはやがて「日常の空間」に変わるものの、卒業後、時間が経った後に再び強い印象となってよみがえるようだ。卒業して5年、成人を迎える卒業生達が毎年、ここで成人式を行う。卒業生達にとって、この章光堂こそが中学時代の思い出の象徴となっているのだろう。

画像:窓の外には銀杏並木

窓の外には銀杏並木

旧制松山高等学校の卒業生である脚本家の早坂暁氏は、同校の学生達の青春を、自伝的小説「ダウンタウン・ヒーローズ」で描いた。この小説は後に映画化され、物語の重要な場面がこの章光堂で撮影されている。
 昭和20年の松山空襲により、同校の校舎が全て焼失した中で、唯一残った章光堂。これからも地域の人々に愛され、数多の青春群像を見守っていくことだろう。

(上甲いづみ)

犬伏武彦EYE

現校長佐藤栄作氏が着任したとき「式典には燕尾服を着用してください」と言われ、戸惑ったと言う。しかし演壇に立ったとき、その服装が建物に合っていることを感じた。時間が変わったような空間を感じたという。生徒達は姿勢を正し、顔を上げている。講堂が醸し出す荘厳さが、自ずからそうさせるのだろう。講堂の窓からは、校庭の銀杏の樹が見える。夏の緑、秋の紅葉、葉を落とした裸木…話に耳を傾け、歌い、劇を演じた若者達…いく人かの人生を、変えたかもしれない建物と思う。

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