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西日本レポート

【兵庫県神戸市】先端医療関連施設の集積が進む神戸市 ~「神戸医療産業都市構想」の現状と今後~

2009.06.01 西日本レポート

先端医療関連施設の集積が進む神戸市 ~「神戸医療産業都市構想」の現状と今後~

神戸ポートピアホテルから医療産業都市をのぞむ

神戸ポートピアホテルから医療産業都市をのぞむ

神戸市にある人工の島「ポートアイランド」を中心に、「神戸医療産業都市構想」が進めら れてきた。構想から10年が経過、現在では、先端医療の研究機関、企業や大学などの集積が進み、日本でも最大級の医療クラスター(集積拠点)に発展してい る。これまでの取り組みや将来像について紹介する。

「医療産業都市構想」とは

1995年1月の阪神・淡路大震災により、神戸経済は大きなダメージを受けた。震災後の神 戸経済を活性化するため、1998年10月に井村裕夫神戸市立中央市民病院長(当時)を中心に医療産業都市構想懇談会が立ち上がった。翌99年3月の「神 戸医療産業都市構想懇談会報告書」で、(1)医療関連産業の市場は今後急速に成長することが見込めること、(2)日本の医療産業発展のために先端医療技術 の革新が必要であること、(3)関西地区で産学官連携を図り、医療産業を集積するためには神戸のインフラや技術力が活かせること、などが提言された。これ に基づき、神戸のポートアイランドを中心に高度医療技術の研究・開発拠点を整備し、医療関連産業の集積を図ることで、日本初のライフサイエンスのクラス ターを形成することを目指すこととなった。

医療産業都市構想の中核機能と目的

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医療産業都市構想の経緯

1999年3月神戸医療産業都市構想懇談会による報告書がまとまる
1999年8月神戸医療産業都市構想研究会を設立
2000年2月国の「新産業構造形成プロジェクト関連の復興特定事業」に選定され、中核施設の整備に着手
2001年8月国の「都市再生プロジェクト」に選定
2002年4月国の「知的クラスター創生事業」に選定
2003年3月独立行政法人理化学研究所の発生・再生科学総合研究センターが完成
2003年4月先端医療センターが開業
2007年3月神戸健康科学(ライフサイエンス)振興ビジョンの策定

医療産業都市の概要

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神戸経済に与えるインパクト

中核施設の整備等に費やした投資額は、09年度予算までの累計で、神戸市が約249億円、国や独立行政法人などが約1,037億円の合計約1,286億円となっている。
神戸市の試算によると、医療産業都市構想の経済効果は、05年度には直接・間接を合わせて、409億円と推計されている。また、市税収入も12~13億円と推計されている(当時のポートアイランド地区への進出企業は約75社)。
現在のところ、中核施設の整備が進んだことに加え、06年2月に神戸空港が開港するなど、インフラの整備が進んだことも追い風となり、09年4月時点で国 内外の医療関連企業152社がポートアイランド地区に集積している。10年度には進出企業が約200社・経済効果が822億円、15年度には同じく約 310社・1,625億円まで拡大すると予測されている。
医療産業都市構想の中核施設と、神戸市内の医療関連企業を合わせると、約2,700人が働いており、雇用面でも大きな影響を与えている。その中には、医師免許や博士号の取得者も多く、「知の集積とネットワーク」が順調に形成されている。

進出企業支援の取り組み

ポートアイランド地区に進出している企業のうち、約半数はベンチャー企業である。これらの企業の進出を支援するために、兵庫県や神戸市では、様々な優遇制度を設けている。
税制面では、固定資産税・都市計画税・事業所税や、不動産取得税などを軽減している。また、金利を優遇した融資制度を整備しているほか、賃料の補助、新規 雇用創出に対する補助、新規事業開始時や設備投資時の補助など、各種補助金を充実させており、進出企業の事業展開を多面的にサポートしている。
なお、進出企業の約6割は研究開発型の企業であり、08年3月には、医療産業都市で創業したバイオベンチャー企業が、進出企業の中で初めて株式上場を果たすなど、研究の成果が大きなビジネスとして花開く企業も徐々に現れ始めている。

高度専門病院の集積

07年3月に提言された「神戸健康科学(ライフサイエンス)振興ビジョン」では、医療産 業都市構想の強みであるトランスレーショナル(基礎から臨床への橋渡し)機能を強化する方針が打ち出されている。その一環として、現在の中央市民病院が、 11年度にポートアイランド地区の中心部に、新中央市民病院として移転開業予定である。近隣の医療関連施設と提携し、人材の交流を図るとともに、新市民病 院を核として、臓器移植やがんの治療、再生医療などの高度医療に特化した専門医療機関と優秀な臨床医を集積させ、国内だけでなく、海外からも患者を受け入 れることを予定している(「メディカルクラスター構想」)。
これにより、基礎的な研究を、標準医療や高度医療などの臨床へ応用することが可能となる。また、市民に対しても、神戸発の最新の研究成果を、新しい治療や予防サービスとして提供することが可能となる。

次世代高精度放射線治療装置

次世代高精度放射線治療装置

次世代スーパーコンピュータ

医療産業都市構想において、今後の核となることが期待されているのが、「次世代スーパーコンピュータ」である。
この施設は、世界最先端・最高性能の計算機システムを作ることを目指した国家プロジェクトとして、07年3月に神戸市に立地が決定したもので、独立行政法人 理化学研究所によって整備が進められている。

建設中の次世代スーパーコンピュータ

建設中の次世代スーパーコンピュータ

次世代スーパーコンピュータを利用すると、世界最速となる1秒間に10ペタ(1ペタは千兆)回の演算が可能となる見込みである。完成後は、産学官に広く開放され、医療だけでなく、航空・宇宙工学や原子力、地球環境などの様々な分野で活用されることが期待されている。
しかしながら、景気の悪化により、今年5月に、開発を担当していた企業の一部が撤退を発表した。理化学研究所によると、稼動スケジュールに変更はないとの見解であるが、今後の動向に注目が集まっている。

甲南大学が進出

医療産業都市構想では、ライフサイエンスに関する教育機関の誘致にも注力しており、07 年4月に兵庫医療大学がポートアイランドに開校するなど、医療関連の大学の集積も進んでいる。今年4月には、次世代スーパーコンピュータ建設予定地の隣接 地に、甲南大学の「フロンティアサイエンス学部」が開校した。
同学部では、「ナノバイオ(ナノテクノロジー+バイオ)」と呼ばれる最先端の科学 を学ぶことが可能である。教育の形式も特徴的で、学生一人ひとりに「マイラボ」という自由に使えるスペースを提供している。また、1学年35人の学生を、 15人の専任教員が担当するなど、少数精鋭による教育体制を実現している。
また、「アイランドシップ教育連携」を掲げ、ポートアイランド地区の 企業・大学・研究施設などと連携を図ることにより、社会に活かせる実践的な学問を習得することを目指している。さらには、隣接地に建設されるスーパーコン ピュータを有効に活用し、研究を充実させていく予定である。

甲南大学フロンティアサイエンス学部新キャンパス

甲南大学フロンティアサイエンス学部新キャンパス

さらなる発展に向けて

神戸医療産業都市は、国や神戸市の主導のもと、計画的に中核施設を整備したことにより、企業の集積も順調に進んだ。しかしながら、いくつかの課題や問題点が残されていると言える。
まずは、昨今の景気後退の影響である。中核施設を整備するためには、相応の資金が必要となるが、税収の減少等により、施設の建設計画が変更・延期となるこ とも考えられる。また、今のところは順調に進出企業が増加しているが、今後は、その数が減少することや、既に進出している企業も、設備投資に対して慎重な 姿勢となることなどが懸念されている。
景気の影響を比較的受けにくいと言われる医療業界であるが、継続して企業を誘致することができるか、また、地元の雇用の受け皿となることができるかが注目されている。
また、ポートアイランド地区への進出企業数や雇用者数は増加しているが、一方で、飲食店やスーパーなど生活に必要な施設が不足していることに対する不満の声もあるようだ。働く人が快適に勤務できる都市機能を充実させることも課題となっている。

おわりに

神戸は、交通のアクセスが良いことや、周辺都市に大学が集積していることなどの強みを有 している。これらの強みを活かしながら、医療産業都市構想は順調に進ちょくし、神戸市は、医療関連施設の集積が国内で最も進んだ都市に発展した。課題はあ るものの、今後を見据えた拠点づくりに注力しており、一段とレベルの高い医療都市となることを期待したい。

(岡田 栄司)

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