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西日本レポート

【高知県室戸市】新素材開発で第2ステージを迎えた室戸海洋深層水 ~健康増進施設「ディープシーワールド」もオープン~

2006.08.01 西日本レポート

新素材開発で第2ステージを迎えた室戸海洋深層水 ~健康増進施設「ディープシーワールド」もオープン~

室戸岬沖水深300~400mで取水された海洋深層水は今、飲料水を始め、各種食品や化粧品などにも利用されている。
海洋深層水が初めて注目されたのは、1881年、フランス人ダンソルバール氏が海洋温度差発電の可能性を提唱した時である。
日本で初めて海洋深層水の事業化に取り組んだのは高知県であり、今回は室戸海洋深層水について紹介したい。

地球を循環する海洋深層水

海洋深層水は一般に、水深200mより深い、日光の届かないところにある海水のことをいう。地球の両極付近の海で生まれ、2000年をかけて地球を大きく循環している深層水がその代表格である(右上図)。 室戸海洋深層水はこの大循環とは別の流れで、太平洋の北部で冷やされて沈み込んだ海水が、水深約1,000mを循環しているものであると考えられている。 大陸棚から海溝に向けての地形がかなり急峻な室戸岬沖では、絶えず深層水が上昇しているので、水深300~400mでも取水可能である。
深層水 の主な特徴は、低温安定性、富栄養性、清浄性、ミネラル特性である。表層水の水温はおよそ16℃から28℃で推移するが、深層水は1年中9℃前後と冷たい (低温安定性)。また、深海では植物プランクトンは活動せず光合成が行われないので、植物プランクトンに吸収されなかった窒素やリンなどの栄養塩類が豊富 に存在する(富栄養性)。清浄性については、ゴミなどの浮遊物がまずないこと、河川や大気に含まれるような環境汚染物質がないこと、細菌などの微生物が極 めて少ないことが挙げられる。
最も注目されている特徴はミネラル特性である。深層水にはマグネシウム、カルシウム、カリウムなど70を超える成 分が含まれている。しかもそれらの構成は、体液の組成と非常に近いそうだ。生物の起源は海であるという一説の所以であろうか。ミネラルは血液代謝、筋肉収 縮、神経刺激に効能があり、人体に大切な成分だと いわれている。深層水の研究が、食品、美容、医療分野などへ進みつつあるのが理解できよう。

産業利用に向けた取り組み

深層水の事業化に向けた研究が世界で進むにつれ、日本でも1976年、科学技術庁の海洋科 学技術センターで研究が開始された。85年、同庁のアクアマリン計画「海洋深層水資源の有効利用技術に関する研究」のモデル海域に室戸岬沖海域が指定さ れ、翌年から同海域での研究がスタートした。89年には高知県が海洋深層水研究所を設置、日本初の陸上型の深層水取水施設が完成し、産業利用に向けた研究 開発体制が整った。
当初の研究は、アワビの飼育やヒラメの養殖等の水産分野から始まった。95年からは、民間への分水が開始され、以降、企業の商品開発に向けた研 究が盛んになった。現在では、深層水を利用して、清涼飲料水や加工食品、化粧品などの商品が開発されたほか、清浄でミネラルに富むことから、トマトやナス などの野菜栽培にも利用されている。深層水を事業化した企業は100社を超え、商品売上は100億円を超える規模にまで拡大した。

深層水を利用した商品売上構成(2005年)

深層水を利用した商品売上構成(2005年)

 

深層水を利用した商品売上額、企業数の推移

深層水を利用した商品売上額、企業数の推移

室戸市取水施設「アクアファーム」も完成

県に加え、室戸市の取水施設が2000年に完成し、企業へのさらなる安定供給が可能になった。取水口の深さは374m、1日の取水量は4,000トン(家庭の風呂約2万杯分)で115の企業に供給されている。
この取水施設「アクアファーム」では、取水したばかりの深層水に直に触れることができる。水槽に手を突っ込んでみると、暫くして、ひんやりした感触がじわ じわと手の甲に広がってきた。思わず水槽から手を出したくなるような冷たさだ。一瞬、深海を感じたような気がした。施設は9時から17時まで見学すること ができる。

「アクアファーム」での一般見学

「アクアファーム」での一般見学

画期的な新素材開発

室戸海洋深層水は、地域資源を活用した産業起こしのモデルケースとして先行していたが、そ の後他の地域も参入し、現在は富山県、沖縄県、北海道など全国16か所に取水施設がある。順調に商品開発されてきた室戸海洋深層水であるが、産地間の競争 が起こり、またミネラルウォーターなど他の商品との競争も激しくなった。
そこで高知県は2003年、深層水を利用した新素材開発に乗り出した。 新素材は「ミネラル調 整液」と呼ばれている。東レ、旭硝子エンジニアリングとの共同研究により、2004年、「調整液」の開発に成功した。また、製造プラントについては、この 3者に高知女子大学を加えた産学官の連携で開発した。ミネラル調整液の特徴は、有用ミネラルであるカルシウムとマグネシウムの成分比率が一定であること、 およびこれらの成分量が、深層水を利用した従来のミネラル水より豊富なことである。

1リットルに含まれる主なミネラル量 (脱塩、濃縮後)

1リットルに含まれる主なミネラル量
(脱塩、濃縮後)

従来の深層水との決定的な違いは、製造過程における脱塩方法である。従来の製造方法では、 脱塩する際、ナトリウムと一緒にカルシウム等もかなり流出するため、商品化する際には、後からカルシウム等を戻していた(加熱処理)。さらに、加熱処理に はミネラル成分比率が大きく変化するという欠点があり、成分比率を一定にさせるのに手間がかかっていた。
新素材の製造方法は、東レの逆浸透膜と 旭硝子エンジニアリングの電気透析技術を組み合わせたものである。この組み合わせで、ナトリウムの除去およびカルシウム、マグネシウムの濃縮を同時に行う (非加熱)。加熱しないのでミネラル成分比率を短時間で一定にさせることができ、調整液量産が可能となった。
製造技術の特許については3者共同で出願中である。また、素材の安全性は、昨年、国際的な受託試験研究機関RCC社(スイス)で証明された。「調整液」はその後粉末化に成功し、サプリメントなど新分野での商品化への期待が高まっている。

新素材の商品化第1号

この画期的な「調整液」を原料とした清涼飲料水が7月に発売され、注目を集めている。開 発したのは株式会社ウトコ(室戸市)である。ホテル、レストランに販路を絞り高級化を打ち出した。今後は、販売状況をみて首都圏の高級スーパーへの販路拡 大を検討するとのことだ。まろやかな飲み心地が特徴である。

ウトコ 「ディープシーウォーター」

ウトコ
「ディープシーウォーター」

深層水は各地で様々に商品化されているが、新素材を開発し、商品化、粉末化に成功したのは高知が最初である。いちごの通年栽培や冷房利用への研究も始まり、深層水への取り組みは新たな段階を迎えたといえる。

7月にオープン!「ディープシーワールド」

ところで室戸岬といえば、ホエールウォッチング、中岡慎太郎像、御厨人窟(みくろど)等の観光名所としても有名である。その室戸岬に7月、「ディープシーワールド」がオープンした。同施設は健康増進温浴施設、高級ホテル、公園などで構成されている。
その中で健康増進温浴施設「バーデハウス室戸」は、海洋深層水をふんだんに利用した温浴プールで人気を博している。入浴前に行う身体測定や自律神経測定の 結果に応じて、個人毎に運動メニューが組まれ、画面の説明に従って水中で行うストレッチングやマッサージが売りだ。これは世界でも類を見ないシステムで、 血流促進、肥満解消等に効能があるそうだ。

バーデハウス室戸の温浴プール

バーデハウス室戸の温浴プール

この温浴プールは広くて、とにかくリラックスできる。フローティングといって、プール底面からの噴水流で、大の字になり全身を浮かせている人もいる。無料開放されている足湯では、利用する人は絶え間なく、お遍路さんも一休みできそうだ。
バーデハウス室戸の年間集客目標は、75,000人(月平均6,250人)。これに対し、7月の利用客数は約9,400人、8月は約11,800人で、滑 り出しは好調といえよう。中高年、家族連れ、女性、外国人客と客層は幅広く、室戸市民も繰り返し訪れているようだ。なお、同施設の利用料金は、室戸市民が 1,000円、市民以外は1,700円と差をつけており、市民のための施設という色彩が濃い。
一方、高級ホテル「ウトコ ディープシーテラピー センター&ホテル」では、美容、健康に効果があるといわれているタラソテラピーを受けることができる。また、窓からの眺めは抜群で、長く滞在したくなるよ うなエレガントなホテルである。利用者は首都圏、関西圏からの女性客が多いそうだ。

地域資源の更なる有効活用に向けて

水に対する消費者ニーズは高度かつ多様化してきている。また、世界では河川の汚濁、地下水の水位低下が起こっており、将来の水不足が懸念されている。したがって「安全、美味、健康」の要素を備える海洋深層水の市場は今後、発展していく可能性が十分にあるといえよう。
深層水は地球を循環し再生するので、枯渇することはないといわれている。しかしながら、地球温暖化による両極付近の環境変化や、工業化の進展による海水汚 染が生じた場合、循環の変化や資源量の減少、品質の低下といった懸念もあるのではないだろうか。私達は、この有益な資源を生かし、後世に引き継いでいくた めにも、環境保全の取り組みを強化する必要があろう。

終わりに、深層水が地域資源としてさらに有効活用される願いを込め、深層水の研究で有名な、ハワイ州のエネルギー研究所の創始者(Dr.John P. Craven)の言葉を紹介したい。
「最も重要な海の資源はその深い海の水そのものかも知れない」

(原田 一志)

 

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